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映画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」:背景となった軍艦島に負けない巨人の造形力

世界中で人気を博しているという原作およびアニメーション作品には,これまでまったく触れたことがなかった。故に「原作とは空気感が違う」「出演者が全員日本人なんて」等々の批判については,当然論評できる立場にはない。その代わりに昭和の怪獣映画に育てられた世代の私が「巨人が人間を襲う」という設定から咄嗟に思い浮かべたのは,本多猪四郎が昭和41年に創り上げた東宝特撮の最高峰「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」にどの程度迫ることが出来るか,という点だった。昭和40年生まれの樋口真嗣監督が同作をリアルタイムで観ていた可能性はないものの,「巨神兵東京に現わる」を観る限り,指向する映像に同作とテイストが重なる部分は多いように感じていたからだ。その結果はと云うと,凡百の「怪獣バトルもの」とは一線を画する,「とてつもなく大きなものに襲われる恐怖」を前面に出した新しいホラー映画の誕生,と言祝ぎたい出来上がりとなった。

軍艦島のロケが効いている。高い壁に囲まれた世界で生きる人間社会,というとピーター・ウィアーの佳作「トゥルーマン・ショー」を想起するが,文明が予期せぬ外力によって崩壊した後,という設定を完璧に体現している廃墟の威容は,出自の分からない巨人が潜む背景としてこれ以上ないくらい見事に機能している。
CGでもなく,ストップモーション・アニメでもなく,生身の人間を使うという特撮陣の判断は,おそらくは合成技術の高さに関する自信に裏付けられたものであろうが,どこから見ても正解だったと拍手を送りたい。人間を食べるシーンのリアルさは,よく「PG12」に留まったものと感心すると同時に,演者とメイクと合成技術のコラボレーションの精度に,東宝特撮の伝統が脈々と息づいているようにも感じた。このスタッフで同じく本多猪四郎作品の「マタンゴ」をリメイクしたら,どんなにか素晴らしいものが出来るだろう,という想像をしてしまった程だ。

そんな想像以上に健闘している特撮パートに比べると,普通の人間が演じるドラマパートの,まるで素人劇団が歌舞伎に挑戦してみましたといわんばかりの演技のオンパレード,あれは一体何なのだろうか。
役柄としてオーバーアクトも致し方ないと思われる石原さとみは別にして,達者なはずの三浦貴大までもが明らかに「どっ,どうした?」という演技で驚かされるが,やはり何といっても主役の三浦春馬の「学芸会の主役になれたのだから頑張らなくちゃ」的な動きと表情には呆れた。「驚いた」と「怒った」の二つの球種しか持たない投手が,大きなスクリーンでは決して通用しないことは,自明の理。
それでも実際に巨人に変身したことで彼の演技も変わるのではないかと期待しつつ,後編での「人間たち」の巻き返しに期待したい。
★★☆
(★★★★★が最高)
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