小さな世界を描いていながら,内包するものはとてつもなく大きい。でも,厄介。
一昨年のカンヌでパルムドールを獲得したミヒャエル・ハネケの新作「白いリボン」を見終えての感想を,どうにか形にしようとしても,こんな言葉しか出て来ないことがもどかしくてならない。
第1次世界大戦直前のドイツの片田舎という,現代の東洋人にとって想像することが容易ではない時代とシチュエーションの下,次々と小さな事件が起こる。事 . . . 本文を読む
ガンバ大阪の宇佐見や中澤は,試合終了のホイッスルが鳴ると同時にピッチに倒れ込み,両チームの選手がエールを交わすセンター・サークルに戻ることが出来なかった。
その気持ちはTVの画面からでも,痛いほどこちらに伝わってきた。彼らが立てなかったのは,勝負に敗れた悔しさだけではなく,サッカーの質という,多くのフットボーラーが自らの拠り所とする点で叩きのめされたことが明らかだったからだ。自分たちが長年やってき . . . 本文を読む
平均視聴率が21%に達する「JIN」が,数字上は一人勝ちの様相を呈している2011年の春ドラマだが,はっきり言って内容的には低調だ。どの局においても脚本家に若手を登用する傾向が目立つが,そのほとんどが総崩れ状態なのに加えて,井上由美子や林宏司といったヴェテラン勢まで,続けて見るに値しない内容の作品を垂れ流し続けているのを観るのは実に悲しい。そんなに悲しいなら観なければよい,と言われそうだが,お笑い . . . 本文を読む
私が観た回の観客の数は,私を入れてたったの3人だった。
だが「ショーン・オブ・ザ・デッド」に「ホット・ファズ」と,斬新で笑いとアクションに満ちた作品を連発してきたエドガー・ライトが,世界中の「オタク」に向けて心を込めて送ってくれたエールの熱量は,過去の諸作を凌いで凄まじいばかりだ。主人公スコット(マイケル・セラ)のバンド「セックス・ボブオム」の演奏で幕を開ける冒頭から,「街の灯」をアダプトしたみた . . . 本文を読む
様々なシチュエーションを駆使して,家族の形を追求し続けてきたウェス・アンダーソンが,ストップ・モーション・アニメーションという極めて映画的且つアナログな手法を用いて,ロアルド・ダールの原作の映画化に挑戦した作品。
近年はすっかり当たり前になってしまった感のある,滑らかなコンピューター・グラフィックスとは明らかに異なる画面の質感を楽しめる観客ならば,拍手喝采すること請け合いだ。
登場人物が何故かみ . . . 本文を読む
野島伸司の珍作「GOLD」で完全にミソを付けてしまった天海祐希だが,フジへの復帰作として選んだのは,ちょうど2年前のヒット作「BOSS」の続編だった。前作の失敗に関しては,勿論母親役を演じた天海だけが責められるべきではないと思うのだが,ドラマの内容だけでなく視聴率的にも惨敗と言っても良い数字になってしまったことが余程こたえたのか,今回その汚名挽回とすべき作品に,鉄板作品の続編を選ぶという「守り」の . . . 本文を読む
ライアン・ゴズリングにミシェル・ウィリアムズ。アメリカという国は映画大国ではあっても,押しも押されぬメジャー・スター二人を配しながら,こんなビターでダークな恋愛劇を作る所だとは思わなかった,というのが正直な感想だ。冥界のヒース・レジャーも,元婚約者の勇気と創意に溢れた仕事に拍手を送っているかもしれない。
感触が似ている作品としてニコラス・ケイジとエリザベス・シューによる「リービング・ラスベガス」 . . . 本文を読む
一目でSFと分かる場面は皆無。だがこれは,そんじょそこらのヤワなSFXが束になっても叶わないほど濃密で格調高い,紛れもない「ハードSF」だ。
定められた運命に静かに身を委ねる若者,というプロットと,画面の張り詰めた静謐さは,キューブリックの「時計じかけのオレンジ」の対極に位置する作品と言っても良いかもしれない。
日系のブッカー賞作家カズオ・イシグロの原作は未読だが,ロビン・ウィリアムズの新たな一 . . . 本文を読む
「こども店長」加藤清史郎によって一躍スポットライトが当たり,芦田愛菜の衝撃的な登場でとどめを刺したと思われた「天才子役」というポジションに,ほんだしのCM「かつお武士」として修行を積んだ加部亜門が挑んだのが,フジの「グッドライフ」だ。
白血病に冒された加部と,やり手だが部下の気持ちも家庭も顧みない新聞記者の父親(反町隆史)との交流を中心に,そんな夫に愛想を付かして家を出た母親(井川遥)と父親との離 . . . 本文を読む