1989年に発表されたケン・フォレットの原作は,2005年にソフトバンク文庫から復刻されてから読んだので,相当遅れてきた読者だったのだが,歴史物にアレルギー反応が出てしまう体質にも拘わらず,ものの見事にはまってしまった。
歴史物といっても膨大な登場人物のうち実在した人物は僅かで,しかも物語の枠組みとして背景に控える役柄を与えられるのみ。波瀾万丈を絵に描いたような物語を動かす登場人物のほとんどがフォ . . . 本文を読む
「必死剣鳥刺し」。まるで「必殺スペシウム光線」みたいな題名に感じられたこともあって,藤沢周平の原作を知らない私にとって敷居はかなり高かったのだが,昨年ブームとなった一連の時代劇作品の中でも,風格という点ではずば抜けた出来だ。時代劇は2作目となる平山秀幸は,時間軸を巧みに操ることでゆっくりとした展開に随所でうねりを与えつつ,豊川悦司の予想外とも言える重量感とアクションスターとしての踏ん張りを活かした . . . 本文を読む
日本が世界に誇る怪獣・SF映画の創造主である本多猪四郎が「生前遺した唯一の本格インタビュー集(本書帯より)」が,生誕100年を記念して新書となって復刻された。
監督の語りがそのまま採録されているようであり,加えて,本当はこの受け答えを基にして第2弾のインタビューも予定されていたこともあってか,読み物としての完成度はお世辞にも高いとは言えない。だが,山形生まれの朴訥とした人柄が滲み出たような語り口か . . . 本文を読む
武井咲の出世作として取り上げた「大切なことはすべて君が教えてくれた」だが,どうやら高校生の間では,教師役の三浦春馬の「びっくり眼(まなこ)」顔が話題になっているらしい。武井咲に迫られても「びっくり!」,戸田恵梨香に責められても「びっくり!」。「イケメンの変顔」≒お笑いとして見たならば,それはそれでかなり高度な技なのかもしれないが,ドラマの主役が行う「演技」として捉えるならば,評価は180度変えざる . . . 本文を読む
ミステリー界で「骨」と言えば,「古い骨」に代表されるアーロン・エルキンズのギデオン教授シリーズが有名だ。だが「骨」そのものにこだわり,そこから犯罪を紐解いていく同シリーズとは違い,キャロル・オコンネルの「愛おしい骨」における「骨」は,物語の導入部としての役割を果たすのみで,その実体はミステリーと言うよりも,大がかりで時代錯誤な昼メロなのだった。これが本当に「このミステリーがすごい!2011年版」の . . . 本文を読む
不作だ。ドラマ・レビュー歴は長くないので,余り偉そうなことは言えないのだが,それでもかつてないほど酷いと言いたくなるほどに。
前期は「Q10」に「SPEC」,更には「フリーター,家を買う。」に「流れ星」と,実験的な野心作からオーソドックスなホームドラマまで,観るべき作品が山のようにあり,我が家のレコーダーは週末の超過勤務に怯えていたほどの豊作だったということはある。そんなゴールデン・シーズンに比べ . . . 本文を読む
映画の評論,批評に出てくる言葉に「人間が描けていない」というものがある。良く目にする表現ではあるが,実のところこれが具体的にはどういった表現や作品を指すのかは,評者によってかなりの違いがあるように感じる。煎じ詰めれば,犬の生態を描いたドキュメンタリーや宇宙人ばかりが登場するSFならいざ知らず,人間が出てきて何事かを為す様子を撮った作品であれば,スタイルの差こそあれ「人間を描いている」訳で,「描けて . . . 本文を読む
これまで,トニー・スコットとの相性は最悪だった。古くは大ヒットした「トップガン」や「ビバリーヒルズ・コップ2」から,近年では「デジャヴ」や「サブウェイ123」まで,記憶にある限り思わず膝を打つという瞬間は,ついぞ訪れたことはなかった。好意的な評者からは「スタイリッシュ」と見なされてきた,アクションシーンにおける大量のカットは,私にはどう見ても物語を支える力を欠いた,フィルムの浪費としか思えなかった . . . 本文を読む