子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

Dave Stewart and Barbara Gaskin「Up From The Dark」

2008年09月07日 14時36分03秒 | 音楽(アーカイブ)
1970年代後半から80年代初頭にかけて,シンセサイザーとシーケンサー(プログラムによって音源を鳴らす制御装置)が急激に発展・普及したことに伴って,男性キーボーディストが作るダンスビートにソウルフルな女性ヴォーカルが乗っかる,という音楽スタイルの男女二人組が,洋の東西を問わずポピュラーな形態となってどっと登場してきた。
1980年代初頭に世界中を席巻したユーリズミックスしかり,文字通りワン&オンリーな名曲「Only You」を残したYazしかり。日本に目を転じれば,サロン・ミュージックに,サイズに,坂本龍一をプロデューサーに迎えた大貫妙子の一連の作品なども実質的にはこうしたユニットのひとつと見なすことが可能だろう。
ハットフィールド&ザ・ノースでキーボードとコーラスを担当していた二人が組んだこのグループは,知名度や売り上げの点ではそうした形態のグループの中でも,最後尾の集団に属しているのかもしれないが,音楽的な個性という観点から眺めると,決して派手ではないが品格ある独特の輝きを放った存在だった。

そんな彼らの代表作と言える,1985年に発表した本作は,1950年代に量産されたハリウッド製SF作品の雰囲気を絵にしたかのようなジャケットがまず目を引く。そのジャケットのイメージ通りと言える,電気仕掛けの自動演奏によって照らし出された空間から,微かに聞こえてくるガスキンの声が印象的な冒頭の「I'm In A Different World」は,フォーキーなポップ・ミュージック宣言として,その幽玄な明るさが今聴いても新鮮に響く。XTCの第3作「Drums and Wires」のA面最後に収められていた「Roads Girdle The Globe」や,トーマス・ドルビーの「Leipzig」のカヴァーで見せた,原曲が持っていた浮遊感を増幅させるような力強いアレンジも秀逸だ。
白眉はアルバムの終盤に収録された「Henry And James」。ディペッシュ・モードが使うような工場ノイズに先導されて幕を開け,バロック的なコード進行にガスキンの声が様々に絡まって綾なす空間は,正にこのユニットでなければ作り得ない繊細な美しさを持っていた。

シンセサイザー音源の発展が,既製楽器の模倣へと進んでいく過程で,元来トラッドフォーク系だったミュージシャンが電子音源独自の響きが持つ可能性を信じて作り上げた音楽が,ダンス・フロアを目指した一連のグループよりも,遙かに自由で豊かな地平を拓いたことは,特筆しておきたい。

ここまで書いて,現在の活動状況を一応調べようと思ってグループ名で検索をかけてみたのだが,そうしたら冒頭で使った「~存在だった」という表現が適当ではなかった,ということが判明した。何と,来年3月に来日することが決まったということだ。
出したアルバムの殆どが廃盤になっている日本で,どういった層をターゲットとしているのかは不明だが,このアルバムが出されて23年,機材の進歩を感じさせない,「ガラパゴス」な音が再現されるのであれば,ちょっと聴いてみたいが,どうだろうか。


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1 コメント

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Dave Stewart & Barbara Gaskin (デイヴ・スチュワート & バーバラ・ガスキン)2023年公演 (Real & True)
2022-12-06 09:56:14
日本公演決まりました。
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