まだエミール・クストリッツァの映画を知らず,従ってバルカン半島のブラス音楽も聴いたこともなかった1987年,バウハウスやコクトー・ツインズで知られるマイナー・レーベルの4ADから出たこの作品を聴いた時の驚きは,TALKING HEADSの「Remain In Light」に圧倒された時のショックに,比肩しうるものがあった。
女声コーラス,というジャンルが想起させる一般的なイメージとは大きくかけ離 . . . 本文を読む
アクション映画と呼ばれるジャンルで作り続けられてきた夥しい作品群の中で,この作品に匹敵する高い質を持ったフィルムは,そう多くはないはずだ。映画というメディアの特性を存分に活かしたショットの集積が誘う世界は,深い奥行きとリズミカルな重量感を持ち,映画を観た,という充足感で観客を満たす。ほぼ完璧と思われた2作目,更に「ユナイテッド93」を経て膨らんだ期待を凌駕する出来映えだ。
長回しによる画作りより . . . 本文を読む
当時の私にとっては,ニューヨークのパンク・グループという漠然とした括りの中にあって,ちょっとはみ出た位置に立ち,エキセントリックかつ飄々とギターをカッティングし続けるびっくり眼のヴォーカル,という印象しかなかった,トーキング・ヘッズの4枚目のアルバム。
しかしそれは,4曲目のタイトル「Once In A Lifetime」が象徴するとおり,正に天地がひっくり返るような衝撃となって,私の前に出現し . . . 本文を読む
アメリカの正義が,野蛮な国の野蛮と思っていた相方と心を通わせ,共通の敵を倒そうと奔走する。リドリー・スコットの「ブラック・レイン」に代表される,文明国アメリカの異文化体験アクションの焼き直しに見える本作は,ラストで思わぬ深みを湛える。いきなり視点が拡がって,少女の瞳に宿る復讐の光を捉えたショットは衝撃的だ。
クライマックスの,正に片時も力を抜けない銃撃戦は,制作に廻ったマイケル・マンの「ヒート」 . . . 本文を読む
中谷美紀が関西国際空港に駆け付けるラストシーン。「くまもとさーん!」と感極まった幸江(中谷美紀)に,「もりたさーん!」と応えるアジャ・コング。
そこに安藤裕子渾身の作「海原の月」がかぶさった時,思わずこみ上げるものを堪えながら心に浮かんだのは「まさか,アジャ・コングに泣かされるとは思わなかった」という思い。参りました。
作り込んだ絵に,薄幸のヒロイン。「嫌われ松子の一生」に先を越された感のある題 . . . 本文を読む
森田芳光と言われて思い出すのは,初期の「家族ゲーム」,「ときめきに死す」,「それから」の3作。いずれの作品にも,妙に会話がぎこちなく,周りの人々と円滑な人間関係を結べない人物が登場した。その会話の間が,温度の低い映像と一緒に提示された時,バブル期直前の時代の空気を切り取る,若き表現者が現れたと期待した人は少なくなかった。
森田の最新作「サウスバウンド」において,特に子供同士の会話の中で,あの懐か . . . 本文を読む
破れた靴を履いてベンチで寝ている浮浪者。その上空高く聳える摩天楼の先端部のどれもが,蛇や豹などに変貌して,お互いに威嚇し合う。都会の持つ魔力と,その片隅でうずくまる敗者を,実に分かり易い凄みで描き出したジャケットのベタな迫力が,発表当時は実に新鮮だった。でもその絵には,30年を経た今,カニエ・ウェストにサンプリングされて新世紀の空気に曝されてもなお,少しも色褪せずに迫ってくるものがある。「キッド・ . . . 本文を読む
「アメリカン・ロックの最高峰」と評されることの多い彼らだが,アメリカ人はリヴォン・ヘルムただ一人で,残りの4人はカナダ人だった。どこを切ってもアメリカの風景や社会,人間,そしてそれらを包む壮大な物語が浮かんでくる彼らの音楽は,実は『外国人が作り上げた神話』という側面を持っていたのかもしれない。
彼らの音楽については,既にグリル・マーカスが素晴らしい評伝を書いているが,ロックンロールに対して深い理 . . . 本文を読む