子供はかまってくれない

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映画「ドミノ」:血みどロドリゲスの華麗なる帰還

2023年12月03日 15時08分05秒 | 映画(新作レヴュー)
ケレン味たっぷりの派手な銃撃戦でハリウッドの扉をぶち抜いてきたロバート・ロドリゲスの新作「ドミノ」は,原題「HYPNOTIC」が示す通り,催眠術が物語を動かすエンジンとなって観客をドライブする優れたスリラーだ。一見チープに見えながらも遊び心に溢れた映像で数々のヒット作を生み出してきた俊英は,何度も急旋回をするようなストーリーテリングに軸足を移動させ,映像も洗練の度合いを深めつつも,初心を忘れることなくど派手な撃ち合いを用意して観客の下世話な期待にも応えてみせる。94分の尺も含めて,ヒットーメーカーの正しいあり方を見た思いだ。

映画は,過去に娘を誘拐され,その消息が掴めないまま刑事としての勤務を続けるローク(ベン・アフレック)が,セラピストから施療を受けるシーンから始まる。ロークがパトロール中に銀行強盗の予告を受けて現場に駆け付けると,居合わせた男(ウィリアム・フィクナー)が会話を交わした人間が皆おかしな行動を取り始める様子から,ロークは先手を取ってある行動に出る。催眠術を操っているらしい男は,追い詰められるもののビルの屋上から飛び降りて姿を消す。ロークは通報してきた占い師の女(アリシー・ブラガ)を問い詰め男の行方を追うのだが,やがて全ての発端は本人が気付いていなかった力が潜在しているローク自身の過去に起因しているのではないかという疑いが浮かんでくる。

見ている風景が上方へとめくられていく操車場の映像や主人公の精神のひだに踏み込んでいく展開は,一見クリストファー・ノーランの「インセプション」を想起させるが,本質的には父が娘を捜す追跡劇にデヴィッド・フィンチャーの「ゲーム」やピーター・ウィアーの「トゥルーマン・ショー」のフレームを重ねて再生産した「壮大などっきりショー」だ。巨大な敵や組織に抗う勇気ある個人という,ロドリゲスがこれまでも描いてきたプロットを,SF的マリアッチ風味を加味してまとめた手際は,ストレートなアクション作品以上に鮮やか。ウィリアム・フィクナーの風貌も含めて,堂々たるB級スリラーとして推奨したい。
ただエンドロールの途中に挟まれた更なる捻りは,明らかに続編を意識したものだったのだろうが,差し足のキレを鈍らせた感は否めなかった。「デスペラード」「スパイキッズ」と三部作好きなのは分かっているけれど,さすがにそれはちょっとねぇ…。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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