「デューン 砂の惑星 PART2」ドゥニ・ヴィルヌーヴ
かつてデヴィッド・リンチやホドロフスキーといった巨匠が映画化に挑み,断念または道半ばで撤退したフランク・ハーバートによる原作「砂の惑星」が,一体どれ程魅力に溢れた小説だったのか,未読の私には分からない。
カナダの秀英という立ち位置から,いつの間にかすっかり世界的な「SFの巨匠」と化した感のあるヴィルヌーヴが取り組んでいる今回のプロジェクトの第 . . . 本文を読む
「哀れなるものたち」ヨルゴス・ランティモス
「ロブスター」で注目を浴び,「聖なる鹿殺し」ではタイトルの意味探しも含めて映画ファンを唸らせ,「女王陛下のお気に入り」で遂にオスカー(主演女優賞)を獲得するに至ったギリシャの鬼才ランティモスが,前作に続いてエマ・ストーンと組んだ新作は,映画ならではのスペクタクルを全編で展開した傑作だ。
作品の骨格は初期の「籠の中の乙女」に似ており,独自の手法によって「人 . . . 本文を読む
功成り名遂げたヴェテランが第一線にカムバックするというニュースは,場合によっては「今更?」という受け止められ方をする危険性が多分にある。ポピュラーミュージック界にあっては,特にグループの再結成において「何をやろうというのか?」「お金の問題か?」というネガティヴな反応が生まれやすく,その危惧はたいてい当たる。あの偉大なスティーリー・ダンでさえ,再結成後のアルバムはグラミー賞に輝いたとは言え「ガウチョ . . . 本文を読む
主人公のトイレ清掃員の平山は,休憩時間中にフィルムカメラで木漏れ日を撮影しては現像に出すことを繰り返す。ファインダーを覗かずに撮った写真は,どんなものが映っているかは出来上がりを観るまで分からない。撮影し,フィルムを使い切ったら現像に出し,出来上がったプリントを家に持ち帰って確認する。気に入ったものは残し,そうでないものは破って捨てる。残した写真はアルバムに貼って整理するでもなく,無造作に缶箱に入 . . . 本文を読む
アニメーション作品が年間を通じてシネコンのスクリーンを独占した一方で,グレタ・ガーウィクの「バービー」が圧倒的な高評価と裏腹に興行的には大苦戦をした2023年。同作とほぼ同時期にアメリカで旋風を巻き起こした「オッペンハイマー」が,日本では公開に至らないという事態を憂う中,とうとうケリー・ライカート作品がロードショー公開されることを寿いだ年末。鑑賞本数は減った割に,数え挙げると10本に絞る作業は困難 . . . 本文を読む
画面をゆっくりと横切っていく馬車群を捉えた「ミークス・カットオフ」のショットを想起させる,川面を運搬船が滑るファーストカットから,もうライカートの術中にはまってしまう。
悠揚迫らぬペースでショットを積み重ね,人間が愚かな何事かを「しでかす」様を炙り出すライカート作品の魅力は,西部開拓においてこんなこともあったかもしれない出来事を描いた「ファースト・カウ」でも健在だ。
現代から始まるエピソードは,完 . . . 本文を読む
デビュー作の「デュエリスト/決闘者」でカンヌの新人監督賞を獲って映画の世界に躍り出たリドリー・スコットは,H.R.ギーガーの優れた造形デザインのサポートも得て,CMディレクターならではのアイデアとビジュアルセンスの合体という未踏のルートからSF映画の新たな頂きを征服してみせた「エイリアン」の若きクリエイター,というイメージが強かった。そのイメージは「ブレードランナー」によって更に強化されたものの, . . . 本文を読む
ケレン味たっぷりの派手な銃撃戦でハリウッドの扉をぶち抜いてきたロバート・ロドリゲスの新作「ドミノ」は,原題「HYPNOTIC」が示す通り,催眠術が物語を動かすエンジンとなって観客をドライブする優れたスリラーだ。一見チープに見えながらも遊び心に溢れた映像で数々のヒット作を生み出してきた俊英は,何度も急旋回をするようなストーリーテリングに軸足を移動させ,映像も洗練の度合いを深めつつも,初心を忘れること . . . 本文を読む
現役の映画監督が選んだ作品を上映し,上映終了後に監督自身が作品を解説し,併せて自作や制作姿勢などについて語る札幌市芸術文化財団主催の企画「映画へと導く映画」シリーズの6回目のゲストは,「あのこは貴族」の岨手由貴子監督だった。彼女がアニエス・ヴァルダの「冬の旅」と共に選んだ「おーい!どんちゃん」の上映後は,同作の監督である沖田修一と出演した女優宮部純子がステージ挨拶をするという嬉しいサプライズもあり . . . 本文を読む
世評の高かった「マイ・ビューティフル・ランドレット」が今ひとつピンとこなかったため,イギリスの新進気鋭の映画監督スティーヴン・フリアーズとの相性は良くないのかと思いながら期待しないで観た「プリック・アップ」の切れ味の鋭さは,今も鮮明に思い出せる。ゲイリー・オールドマンの出世作でもある同作が証明した,独善に落ちることなく心の闇を抉り出すフリアーズの手腕は,娯楽色を強めつつ実話を立体的に映画化する方向 . . . 本文を読む