今やすっかり人の口の端に上ることもなくなったドゥービー・ブラザーズではあるが,70年代に青春を送ったロック好きの中には,その名前を聞いてちょっと気恥ずかしくも甘酸っぱい感傷に浸る人も多いのではないだろうか。
巷で話題のおじさんバンド愛好者の中には,嫌がる子供や新入社員達に無理矢理LP版を聴かせている「隠れドゥービー」ファンも少なからずいるのではないかと推測される(いるのかっ?)が,彼らは私の高校時 . . . 本文を読む
全編にビートルズ・ナンバー33曲を使って,ベトナム戦争の泥沼にはまっていく60年代の米国を舞台に,イギリスからやって来た造船労働者のジュードと,戦争で恋人を失い反戦運動にのめり込んでいくルーシーの恋を,ミュージカル仕立てで描いたジュリー・テイモアの新作。
全ての歌を登場人物が歌い,歌の内容に沿って時にキャメラは空中へ飛翔し,海中へと沈降していく。史実と空想と歌の内容が,マリファナの中で境界を失って . . . 本文を読む
結婚して家を出た子供達が,自分の伴侶と子供を伴って実家に帰る。食事をして,墓参りをして,子供たち同士が少し遊んで,また来るねと約束をして,帰って行く。残された両親は,子供たちがいる間のお互いの振る舞いにひとしきり意見をした後,また静かな日常に戻っていく。
親と子,妻と夫,祖父母と孫,それぞれがすれ違い,ぶつかり,ため息を飲み込み,やがて腰を上げて,「誰とも比べられない」人生の時間という距離を泳ぎ切 . . . 本文を読む
18日までに誕生した日本人金メダリストは,柔道の石井を除けば,北島,内柴,谷本,上野,吉田,伊調と,アテネ五輪で獲得した栄冠を死守することに成功した選手たちばかりだ。
「世界一」という称号が与える重圧や喧噪に耐え,4年間という長い時間を経て再び戴冠の栄誉に浴するまでの心の動きは,当事者でなければ分からないほど振幅の激しいものであったに違いない。自分との戦いに決着を付けた上で,最終的に最高の結末に辿 . . . 本文を読む
(承前)
運営態勢については,あれこれ書いてしまったが,雨の中で繰り広げられたパフォーマンスの方は,どれも素晴らしかった。
特に私が3ステージを観た小さなレッド・スター・フィールド(セルビアの名門チームの名を冠したところを見ると,名付け親は欧州サッカーフリークか,ストイコビッチのファンだったのかもしれない)は,開演前に関係者が「音の良さでは全国一」と自負していた通り,一つ一つの音が音量で潰されるこ . . . 本文を読む
高度成長期の終焉期といういにしえに,よみうりランドや真駒内で行われていた「LIVE UNDER THE SKY」,札幌の山奥,盤渓や芸術の森で催されていた(る)レゲエやジャズ・フェスなどを聴きに行ったことは何度かあった。しかし「FUJI ROCK」に端を発する,複数ステージ,大量出演を前提とする所謂「巨大夏フェス」と呼ばれるものには,これまで全く縁がなかった。
サマソニやフジには食指を動かされるラ . . . 本文を読む
デビュー作の「シックス・センス」以来,前作の「レディ・イン・ザ・ウォーター」を除くM・ナイト・シャマラン作品は,全て劇場で観てきた。それは,デビュー作で話題となったどんでん返しの快感を再び味わえるのではないか,という期待からというよりは,何やら胡散臭いこと,怪しげなものが観られるのではないか,という私のように下世話な観客の好奇心を掻き立てる匂いが,彼の作品の至る所から立ち上っているからに他ならない . . . 本文を読む
いやー,本当に素晴らしい戦いだった。よりによってこの日に,夏休みを取っていたことの幸運に,心から感謝したい。
バドミントン女子の準々決勝を制した前田・末綱両選手の健闘は,夢にまで見た晴れの舞台において,完全燃焼するということはこういうことだ,という見本を見せてくれたと思う。サッカー男子の中途半端な戦い振りにも拘わらず「後悔はない」と言い切った監督が,もしこの試合を観ていたなら,どんな感想を持ったの . . . 本文を読む
凄い。宗介のもとへ戻る決心をしたポニョが,うねる大波と化した妹たちの頭に載って,全力で疾駆するショットには,文字通り言葉を失ってしまうくらいの迫力が宿っている。海という,人間が想像出来るスケールを超えた大きさと,生命の源である神々しさを持った存在を,ここまでの美しさと迫力で描いた作品を,他に知らない。
ここに息づいている果敢なチャレンジ精神を前にすれば,新作が出る度に言われてきた「最高傑作」という . . . 本文を読む
小説家である主人公が,小説好きなビルの清掃婦に尋ねる。「どうして小説を読むんだい?」。するとその清掃婦が答える。「そんなの決まってるじゃない。その先がどうなるか知りたいからよ」。
今から25年くらい前,今はなきサンリオ出版から出たジョン・アーヴィングの「ガープの世界」にあったやり取りは,確かこんな風だったはずだ。自信はないけれど。
細かな描写はともかく,こんなたわいのない場面を憶えているのは,私自 . . . 本文を読む