市川崑監督の1960年作品の「おとうと」は,心温まる姉弟愛を主題に据えながらも,後にスピルバーグにも影響を与えた「銀残し」という斬新な現像技法と,突然訪れる観客を突き放すようなラストシーンが印象的な,実に革新的な作品だった。
その市川作品に捧げられた山田洋次の久しぶりの現代劇は,人情劇の裏側に今の日本が抱える様々な問題をさりげなく塗した,21世紀版の寅さんとさくらとも言える姉弟の物語になっていた。 . . . 本文を読む
中村義洋監督のメジャー・デビューと言える「アヒルと鴨のコインロッカー」から観てきた伊坂幸太郎原作の映画化作品の中では,ずば抜けて完成度の高い作品だ。
不条理としか言いようのない罠にはめられた主人公が,自ら行動することによって様々な人を巻き込み,絶体絶命の窮地から脱出する,というシンプルなストーリーが,ここまで心を打つ映像になるとは予想していなかった。メジャーな娯楽映画のフィールドで,地道にキャリア . . . 本文を読む
2シーズンに跨って制作されているフジの「不毛地帯」だが,航空機から始まった近畿商事(壱岐:唐沢寿明)対東京商事(鮫島:遠藤憲一)の対決は,自動車での壱岐の惨敗を経て,いよいよ石油を巡る利権争いという最終局面に入ってきた。
このところの数字は11~12%辺りで推移しており,前半で記録してしまった一桁(第4回)というスランプ状態に陥る心配はないように見える。
このシリーズは,例えて言えば「160km . . . 本文を読む
2月の寒い日曜日の夜。お寒い内容の試合が3試合続いたにも拘わらず,国立のスタンドには代表の復活を期待したサポーターが大勢詰めかけていた。TV放送の中では観衆の数は発表されなかった(場内放送で発表された内容は,中継の声にかき消されて聞こえなかった)が,多分香港戦の倍以上は入っていたのではないだろうか。
しかし,試合はそんなサポーターのささやかな希望を打ち砕くような,貧しい内容と過酷な結果となってしま . . . 本文を読む
原作となった小説は,「笑う警官」に代表されるスウェーデンの社会派推理の列に連なる優れたサスペンスだった。40年間も迷宮入りしていた謎を解く鍵が,古い写真とiBookのコンビネーションだった,という描写に象徴されるように,古典とモダンを極寒の地で練り合わせた手腕は,これがデビュー作とは思えないレヴェルの高さだった。
この完成度の高い小説を本国(スウェーデン)の映画人達が,どんなに映画にするのか興味は . . . 本文を読む
私にとって日本サッカー協会の犬飼会長は,Jリーグの秋春制実施に執着している,という一点だけを取っても信頼を置くことが出来ない人物なのだが,先日の親善マッチ対ベネズエラ戦について,失望のあまりコメントを拒否したことについては,心から共感できた。それほどにひどい試合だったのだが,もっと驚いたのは,岡田監督が「修正は必要ない」というコメントを発したことだった。
思った以上に速く継続的だったベネズエラの . . . 本文を読む
テリー・ギリアムの映像にかける強い思いは,執念と言っても良いくらいに強く激しい。だが時にその激しさは,あらゆるものを引き付ける磁力をも伴うのか,ギリアムはこれまで編集を巡る映画会社との衝突(未来世紀ブラジル)や,制作会社の失態による莫大な赤字(バロン),更には予期せぬ事故の連続による制作中止(ドン・キホーテを殺した男)等々の,それ事態が映画の題材となるような数多のトラブルに遭遇してきた。
制作途 . . . 本文を読む