主人公が映画の最後に自らの思いの丈を切々と,または堂々と喋る映画がある。様々な制約の下で本音を隠していた主人公が物語の「最後」に及んで,言いたいことをすべてぶちまける。その本音が観客を感動させられるかどうかは,勿論その演説自体のパフォーマンスの出来も大事な要素だが,そこに向かって作品のあちこちにどれだけ周到な仕掛けが施されるか,それがヤマ場と如何に呼応し合うかにかかっている。そんな高度なチャレンジ . . . 本文を読む
ブライアン・シンガーの鮮やかなデビュー作「ユージュアル・サスペクツ」は,画面に出て来ない主犯の「カイザー・ソゼ」を巡る捜査劇だった。おそらく今後はもう新たな出演作を観ることはないであろうケヴィン・スペイシーの証言を元に,犯人の人物像を組み立てていくのがドラマの主軸だったが,城定秀夫の鑑賞年齢制限の付かない新作「アルプススタンドのはしの方」も,最後まで画面には登場しない3人の野球選手を巡るやり取りが . . . 本文を読む
死体を利用して無人島からの脱出を試みるユニークなサバイバル譚「スイス・アーミー・マン」はA24の制作,更にポール・ダノとダニエル・ラドクリフの熱演もあって世評は高かったのだが,私は乗れなかった。死体から飲み水が無尽蔵に出てくるところで躓き,死体役のラドクリフには悪いが,死体が甦って現実とファンタジーの境界が曖昧になる地点で,完全に置いてけぼりを食ってしまった。だから同作で共同監督を務めていたうちの . . . 本文を読む
COVID-19禍で公開が延期されていた大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」がようやく公開された。長く病を患っていた監督が,本来の公開予定日に亡くなった,というニュースを聞いて,自分の誕生日に亡くなった小津安二郎を想起させるような律儀なエンドマークの付け方だと思ったのだが,この長尺の遺作もまた,どのショットを取っても大林ブランド印だらけの見事な遺書となっていた。「キネマの玉手箱」とい . . . 本文を読む
6月に美術館連絡協議会と読賣新聞が立ち上げたウェブサイト「美術館女子」が,そのコンセプトを巡って論争が起き,結局閉鎖に至った,という顛末が読賣以外の紙面をも賑わせる事態となった。「美術手帖」の記事には,女子という言葉にジェンダー・バランスを欠いた意識が顕著,無知な観客の役割を女性に負わせている,等の分析が載っていたが,鉄道や歴史に興味を持つ女性がそのことだけで過剰に持ち上げられ,「女子」というバッ . . . 本文を読む