真面目に生きているのに,何故だか世間との間に微妙なズレが生じてしまい,それを埋めようとすればするほど,傍から見たら滑稽な踊りを踊っているように見えてしまう。
劇中でナオミ・ワッツが演じるコーネリアが,若者だらけのダンス教室で調子っぱずれのヒップホップダンスにチャレンジする抱腹絶倒のシーンに象徴される,「痛い」んだけれども時代に取り残されまいと懸命に生きる中年の姿が全編に亘って繰り広げられる。「ヤン . . . 本文を読む
佐村河内守氏と新垣隆氏が起こした「ゴーストライター事件」については,この作品中でも「立派な賞(大宅壮一ノンフィクション賞)を貰った」と言及されている,神山典士氏によるルポルタージュ「ペテン師と天才」がある(以下,敬称略)。その中に,ヴァイオリンを弾く隻腕の少女が,佐村河内の指示によって見世物にさせられそうになるという,この事件の核心を象徴するような重要なエピソードがあるのだが,本作の中で監督の森達 . . . 本文を読む
神様,仏様,金山様,という試合だった。
後半,足が止まった札幌陣内で面白いようにボールを廻しては,立て続けにゴールマウスを襲った松本の攻撃を,流行りの言葉で言えば「神ってる」セーブによって防いだ金山の活躍こそが,勝ち点3をもぎ取った最大の原動力だったことに異論を挟む人はいないだろう。五輪メンバーに選ばれてチームを離れたク・ソンユンも,今宵限りは手放しでライバルの活躍を讃えるはずだ。
最初の対戦で . . . 本文を読む
原田知世のカヴァー集の中でも取り上げられていた,太田裕美の往年のヒット曲「木綿のハンカチーフ」は,都会に出てきた青年が田舎に残してきた彼女との間に出来た距離を埋められずに別れを迎える,という悲恋をテーマにした佳曲だったが,「ブルックリン」は,すべてその逆を行く。田舎を出るのは男性ではなく女性の方であり,都会に出てきて実直な男性と出会い,やがて結婚する。姉の死をきっかけに故郷に戻って新たな恋をするが . . . 本文を読む
ロザムンド・パイクの熱演とデヴィッド・フィンチャーの周到な演出という要素も大きかったとは言え,「ゴーン・ガール」の鮮烈なヒロイン像は,やはり原作者であるギリアン・フリンの筆力に負うところが大きいと感じた観客は多かったはず。文字通り身体を張って生き延びるんだという執念の強さにおいて,夫を出し抜いたヒロインのビッチ振りは,ミステリーの映画化作品の歴史に残る強烈なものだった。
その原作者が再びミステリー . . . 本文を読む
ウェルメイドなSF仕立ての喜劇かと思ったら,中盤で現代に甦ったヒトラー(オリヴァー・マスッチ)が街角の人に話し掛けるシークエンスが幾つか続く。どうやら,やらせや仕込みではなく,ガチでヒトラーもどきの少しいかれた中年親父に絡まれてしまった,という風情の市民が,どぎまぎしながら応答する場面が実にスリリングだ。
稀代のコメディアンであるサシャ・バロン=コーエンが作り出した「ボラット 栄光ナル国家カザフス . . . 本文を読む
原作のエンディング部分に辿り着いた時点で,上映時間はまだ1時間弱残っていた。しかも昭和64年に起こった誘拐事件,通称「64ロクヨン」の犯人と目されたスポーツ用品店経営者目崎(緒形直人)は,証拠不十分で釈放されてしまった。原作とは異なる展開に半信半疑のままスクリーンを凝視していた私の前で,引き続いて繰り広げられた物語は,残念ながら原作が持っていた豊かな拡がりや余韻を欠き,取って付けたようなアクション . . . 本文を読む
原作を読み,テレビ版を観んだ。もうそれだけで充分,と知人は言ったが,監督は瀬々敬久。ピンク四天王と呼ばれた俊英が,メジャー資本で超話題作を演出するという興味に加えて,出演陣の層の厚さはソフトバンク・ホークス並み。やはり観に行かない訳にはいかない。
結果は,原作における主人公の造形,すなわち父親に顔が似ているということが,娘が家出した最大の原因となるほどに醜悪,とは真逆のダンディー佐藤浩市を据えたこ . . . 本文を読む