タイトルにある「狂人」は使っているATOKでは出て来なかった。この,もはや現代では「使ってはいけない単語」にカテゴライズされているらしい「狂人」の存在こそが,世界に冠たる英語辞典OEDの誕生に欠かせないものだった,という歴史上の事実を描いた本作もまた,メル・ギブソンという「THE MADMAN」の執念の賜物なのかもしれない。
英語に関するあらゆる単語とその由来を記した辞書OED(The Oxfo . . . 本文を読む
今村夏子の小説が映画化される,と聞いた時,最初に思い浮かべたのは「監督はミヒャエル・ハネケが適任」ということだった。社会の不条理によって歪んでいく人間の心の闇と,それとは相反する一途な人間の強靱さ,といったモチーフを描くのにぴったりのディレクターは,「ピアニスト」のハネケを措いていないのでは,という単純な連想だった。
オーストリアに日本の芥川賞作家の名前が届いているかどうかは分からないが,蓋を開け . . . 本文を読む
ミン・ジン=リーの小説「パチンコ」は,日本が占領していた時代の朝鮮半島から大阪へと渡ってきた家族の4代に亘る愛と苦闘を描いた,頁をめくる手が止まらない文字通りの「ページターナー」だった。その中で3代目モーザスの妻となる裕美が,日本では在日が幸せになることは出来ないと考え,アメリカへの移住を夢見て英語の勉強に励むというのが,終盤の布石となっていたのだが,北京で生まれマイアミやボストンで育ったという監 . . . 本文を読む
クリストファー・ノーランの新作「TENETテネット」が公開後,2週続けて興収第1位になったというニュースには,驚かされた。かなり早い段階から「凄い」「これまでの時間操業ものの最高峰」といった業界内の高い評判が伝わってきてはいたが,COVID-19禍により公開が延期されたことにより,観客側の渇望感が更に高まったことも相俟っての猛ダッシュとなったのかもしれない。内容的には,ノーランの名を世界に轟かせた . . . 本文を読む