圧倒的な筆力と完全にひとつのチームと化した役者陣の素晴らしいパフォーマンスによって観客をドライブした「スリー・ビルボード」から早6年。待ちに待ったマーティン・マクドナーの新作は,100年前のアイルランドを舞台にしたとてつもないお伽噺だった。巷間よく耳にする「タイパ(タイム・パフォーマンス)」的には相当評価が低くなるであろう作品だからこそ創り得た空間の魅力に酔いしれる114分。またもや受難に遭う指が . . . 本文を読む
作品の中で,さまざまな音楽ジャンルにおいてリーダー格のポジションにいる大勢の音楽家が「エンニオ・モリコーネ」の偉大さを褒め称えるのだが,中でもジャズ・ギタリストのパット・メセニーが語った「最大の羅針盤だった」という言葉が,この作曲家の存在の大きさを顕す最も適切な献辞だったように思う。心に残る旋律。映像を補完することを越えて,物語の核へと導いていく音遣い。叙情と前衛の拮抗。「映画」という,音楽が何処 . . . 本文を読む
デイミアン・チャゼル監督の作品をサッカーに喩えるならば,デビュー作の「セッション」と第3作目の「ファースト・マン」は全編に亘ってテンションをほぼ均一に保ったプレッシング・サッカーを繰り広げる玄人向けのゲームで,大ヒットを飛ばした第2作の「ラ・ラ・ランド」は試合開始直後に爆発的なプレスをかけ,相手が息つく間もなく得点を奪い,後はその勢いを利用して90分間近くの時間を上手に費消する試合だった,という印 . . . 本文を読む
劇中で「ワインスタインは彼を嫌っているスコセッシと打ち合わせだ」という内容の台詞が出てくる。暴力を人間の性のひとつとして描いた巨匠が,果たして「ギャング・オブ・ニューヨーク」や「アビエイター」で組んだ大物プロデューサーの何を嫌ったのか。「ハーヴェイ・シザーハンズ」とも呼ばれた身勝手な編集癖だったのか。本作で間接的に描かれているワインスタインの醜悪な人間性に対する本能的な嫌悪感だったのか。映画の筋に . . . 本文を読む
ラストシーンで映画の歴史を形作ってきた名監督の名前が列挙される。ベルイマンやキューブリックなど世界中のあらゆる映画監督が挙げるであろう名匠が居並ぶ中,日本の映画監督として黒澤,小津と並んで「砂の女」や「他人の顔」を撮った勅使河原宏の名前が出てくる。世界に名を知られた日本人監督ということであれば老舗の映画祭で名を馳せた今村やフランソワ・トリュフォーも絶賛したという山中,更には再評価が進んでいる成瀬ら . . . 本文を読む