アメリカの数ある大衆音楽の中でも,ソウル・ミュージックほど「映画」というメディアと親和性の高いジャンルはないだろう。実在のアーティストを取り上げた映画だけに限っても,ジェイミー・フォックスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した「Ray/レイ」から現在公開中の「JIMI:栄光への軌跡」まで,ロック・ミュージシャンのそれを遥かに凌駕する数の作品が作られてきた。
リアルな伝記映画以外にも,ドキュメンタリーや . . . 本文を読む
管理社会に対する批判的な視座を,ガジェットとユーモアと切ない感傷を交えて確立したテリー・ギリアムの傑作「未来世紀ブラジル」からちょうど30年。振り返ってみるとこの30年,ギリアムの新作と聞けば必ず劇場に駆け付けてきた最大の理由は「あの『ブラジル』の興奮をもう一度」という想いに縛られてきた,ということに尽きる。ダクトが入り組んだ空間に,若返りを夢見て機械に顔を引っ張らせる老婦人。様々なハイテクとロー . . . 本文を読む
リチャード・リンクレイターの傑作「6才の僕が,大人になるまで。」を押しのけて,アカデミー賞の主要部門を総なめにしたアレハンドロ・ゴンザレス=イニャリトゥ監督の新作は,題名に偽りありだろう。
(無知がもたらす予期せぬ奇跡)どころか,隅から隅までイニャリトゥの頭の中に描かれた構成と構図が,隙のないキャスティングとそれに応えた俳優陣の奮闘と,撮影のエマニュエル・ルベツキーを筆頭に揃えられた腕利きスタッフ . . . 本文を読む
上映は連休の夕方で,客席は当初約8割くらい埋まっていたのだが,1時間を過ぎた辺りで私の隣に座っていた女性客がひとり,更に2時間くらい経ったところでもうひとり席を立ったのが確認できたが,後ろの方で帰ってしまったお客さんがどのくらいいたのかは分からない。アンドレイ・タルコフスキーによって映画化された「ストーカー」を書いたストルガツキー兄弟による原作は一応,SFらしい。「らしい」というのは,地球とは別の . . . 本文を読む
一度見たら忘れられない顔,聞いたら耳について離れない声,というものがあるとしたら,この映画の実質的な主役であるJ.K.シモンズこそ,まさにそんな個性を持つ役者の代表格だろう。
「ジュノ/JUNO」におけるお父さん役は,出番こそ少ないものの,あの迫力のある顔と深みを湛えた声によって,映画のベースを支える柱の一つになっていた。その「ジュノ/JUNO」を監督したジェイソン・ライトマンが制作に廻った本作「 . . . 本文を読む
失踪した愛人を探して欲しい。冴えない私立探偵の元に舞い込んだ依頼は,別れた恋人からのものだった。何やらレイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」を想起させる出だしながら,サスペンスは一向に盛り上がらず,ひたすら大勢の人間がスクリーンを出たり入ったり。何より主役の探偵(ホアキン・フェニックス)が,マリファナの霞の中から起き出したばかりという風情で,フィリップ・マーロウの小間使いも務まらないよう . . . 本文を読む