子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「スカイフォール」:最高のスタッフが集結して練り上げられた「M」への手向けの花
劇場で「007」シリーズを観るのは,ひょっとしたら小学生の時以来かもしれない。本シリーズについて,「大人の男」という言葉が漂わせる数多のイメージと「ヨーロッパの老舗ブランド信仰」とを自然に結びつけていたショーン・コネリーこそが唯一の「007」であるべき,というステレオタイプの捉え方をしていた私は,ロジャー・ムーアやピアース・ブロスナン版にはとんと興味を持てないまま,この「アクション大作」からは距離を置いていた。新版「カジノ・ロワイヤル」で新しいボンド像を提示したと話題になったダニエル・クレイグのバージョンも,液晶画面以外のフォーマットで対面するのはこれが初めてだ。
「ロード・トゥ・パーディション」と「ジャーヘッド」の2本で,一応アクションに取り組んだ経験は積んでいるものの,体質的にはどう見てもボンドとは距離があると感じられるサム・メンデスが作り上げた最新作「スカイフォール」は,結果的にスタイリッシュでありながら,人間臭さを漂わせたニュー・ボンドのキャラクターよりも,職人的な絵づくりの巧みさで観客を鷲掴みにする。
まずはオープニングのアデルが歌う主題歌と,バイクを使ったチェイスとそれに続く列車上のアクションの切れ味が素晴らしい。アデルの歌唱には,カニエ・ウェストがサンプリングしたシャーリー・バッシーの「ゴールドフィンガー」に匹敵するゴージャスな迫力が宿っているし,アクションにはショーン・コネリー版の最高傑作と謳われる「ロシアより愛をこめて」へのオマージュも含めて,我こそがスパイ・アクションの原点であり,かつ過度なSFXは必要ない,という矜持を感じさせる見事な出来映えだ。
今回のボンドの敵(ハビエル・バルデム)とM(ジュディ・デンチ)の間に存在する,母子の近親憎悪にも似た関係を,ボンドとMの間にも敷衍させた脚本は,思ったほどにはドラマに深みを与えてきれていない。
だが,自ら監督もするスチュアート・ベアードが担当した編集と,コーエン兄弟の相方として知られる名手ロジャー・ディーキンスのカメラは,アクション・シークエンスは勿論,会話場面でも軽快なリズムと奥行きを示して見事だ。特にラストの夜間の襲撃シーンは,もしも彼らがいなかったならば,位置関係も攻守の状況も何が何だか分からないものになっていた可能性が高い。高度な技術は,ある意味画面に登場する小道具以上の「ブランド」になっている。
完全無欠のヒーローと「ボーン・アイデンティティ」の中間地点でバランスを取りながら,現代的なスリラーを成立させる。新世紀のボンドに課せられたそんな課題は,ほぼ理想に近い形で成し遂げられていると感じるが,願わくばジェフリー・ディーヴァーの「白紙委任状」は,この技術スタッフとコーエン兄弟,ボンドはジョージ・クルーニーという,変則ドリームチームでチャレンジを。
★★★☆
(★★★★★が最高)
「ロード・トゥ・パーディション」と「ジャーヘッド」の2本で,一応アクションに取り組んだ経験は積んでいるものの,体質的にはどう見てもボンドとは距離があると感じられるサム・メンデスが作り上げた最新作「スカイフォール」は,結果的にスタイリッシュでありながら,人間臭さを漂わせたニュー・ボンドのキャラクターよりも,職人的な絵づくりの巧みさで観客を鷲掴みにする。
まずはオープニングのアデルが歌う主題歌と,バイクを使ったチェイスとそれに続く列車上のアクションの切れ味が素晴らしい。アデルの歌唱には,カニエ・ウェストがサンプリングしたシャーリー・バッシーの「ゴールドフィンガー」に匹敵するゴージャスな迫力が宿っているし,アクションにはショーン・コネリー版の最高傑作と謳われる「ロシアより愛をこめて」へのオマージュも含めて,我こそがスパイ・アクションの原点であり,かつ過度なSFXは必要ない,という矜持を感じさせる見事な出来映えだ。
今回のボンドの敵(ハビエル・バルデム)とM(ジュディ・デンチ)の間に存在する,母子の近親憎悪にも似た関係を,ボンドとMの間にも敷衍させた脚本は,思ったほどにはドラマに深みを与えてきれていない。
だが,自ら監督もするスチュアート・ベアードが担当した編集と,コーエン兄弟の相方として知られる名手ロジャー・ディーキンスのカメラは,アクション・シークエンスは勿論,会話場面でも軽快なリズムと奥行きを示して見事だ。特にラストの夜間の襲撃シーンは,もしも彼らがいなかったならば,位置関係も攻守の状況も何が何だか分からないものになっていた可能性が高い。高度な技術は,ある意味画面に登場する小道具以上の「ブランド」になっている。
完全無欠のヒーローと「ボーン・アイデンティティ」の中間地点でバランスを取りながら,現代的なスリラーを成立させる。新世紀のボンドに課せられたそんな課題は,ほぼ理想に近い形で成し遂げられていると感じるが,願わくばジェフリー・ディーヴァーの「白紙委任状」は,この技術スタッフとコーエン兄弟,ボンドはジョージ・クルーニーという,変則ドリームチームでチャレンジを。
★★★☆
(★★★★★が最高)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 映画 2012年... | 映画「桐島,... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません |