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映画「婚前特急」:吉高由里子,本格派コメディエンヌとしての第一歩を標す

2011年08月14日 19時58分48秒 | 映画(新作レヴュー)
チラシには「21世紀のスクリューボールコメディ誕生!」という宣伝文句が「!」付きで踊っていた。今ではとんと聞かれなくなった「スクリューボールコメディ」というジャンルを,「かつてフランク・キャプラやハワード・ホークスが得意とした,男女が喧嘩をしながら,徐々に惹かれあっていく過程を描いたもの」と定義付けるとしたら,ヒロインが5人のボーイフレンドと性的関係にあることを前提として話が始まる「婚前特急」を,そう呼ぶのは正しくないかもしれない。
だが,吉高由里子の真っ直ぐで弾けるようなアクションには,間違いなく「スクリューボールコメディ」のヒロインとしての輝きが宿っている。決して「出来が良い作品」とは言えないが,彼女のファンならずとも,屈託のない笑顔でハイボール・パーティーを開くテレビCMの吉高由里子とはひと味違う魅力を感じることは出来るはずだ。

前田弘二が高田亮と共同で脚本を書き,監督としてのデビューとなった本作の最大の魅力は,吉高のコメディエンヌとしての魅力を引き出した点に尽きる。雰囲気が「ドランクドラゴン」の塚地武雅とダブって仕方なかった「SAKEROCK」の浜野謙太とのやり取りからにじみ出る,我が侭で高飛車なのにどこか憎めないキャラは,吉高の役者としての資質を正しく理解しているからこその成果だろう。
特に顔のクロース・アップよりも,バスト・ショット(胸から上のショット)やフル・ショット(全身サイズのショット)を多用することによって,小細工に走らず,全身で演技することを求めた監督の選択は,的確だったと言える。

だが映画全体を俯瞰すると,5人のボーイフレンドを査定する,という物語の基本フレームを用意しておきながら,査定を始めた最初のステップで,最も可能性が低いと思われた浜野と吉高二人の恋愛曲がり道に収斂されてしまうという展開は,どうにも納得できない。辛うじて終盤で加瀬亮が少しだけ絡むが,物語を膨らませるには到らない。
5股をかけられていた男の側の嫉妬や,ヒロインの迷いといった,ドラマを動かすと思われた要素を早々に放棄しておきながら,107分という長めの尺を費やした編集感覚も一考の余地がある。

それでも吉高にとっては経験する価値のある作品だったとは思う。味噌汁にトーストという食事を取りながら物語のクローザーとして登場する,かつての「ロマン・ポルノの女王」白川和子から,貴重な経験を伝えられていますように。
★★☆
(★★★★★が最高)


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