goo

2009年TVドラマ春シーズンレビューその3:「白い春」,「スマイル」

(承前)
稲森いずみと板谷由夏という,年齢的にもポジション的にも若年視聴者層には見放されても致し方ないという宣言をしたに等しいキャスティングと,小学生の殺人というショッキングな題材を取り上げたことに顕れていた,冒険的な制作姿勢を見逃してしまったが故にチェックできなかったのが,日テレ「アイシテル~海容~」。そのチャレンジ精神に反応した母親層の視聴者数は私の予想を上回り,ここまでの平均視聴率は13.77%となっており,正直今の気分は「へたこいた」という感じ。視聴可能時間が限られている以上,こういうプログラムが各期一つくらい生じるのは仕方のないところなのだが,後でDVDを借りてまで追いかける程の体力もないため,評判の番組を見逃すのはやはり悔しさが募る。

その点,今のTVドラマ界では質的な信用度を出演している役者で判断するというのも,あながち突飛な判断基準とは言えない。そういった場合に天海祐希と並んで,高い打率を挙げられるのは「結婚できない男」以降の阿部寛,という見立てをする人も多いのではないか。
人付き合いが下手で偏屈,マニアックだが思いこんだら命懸けという,近年の正に「阿部寛の定番タイプ」から理想の3高男まで,レンジは広いが,抑制の利いた演技で独自の境地を歩き続ける絶好調男の調子は今期も衰えていないようだ。
かつては草剛枠というイメージがあった火曜22時に放送されているフジ「白い春」は,再び「結婚~」の尾崎将也脚本=阿部寛主演というコンビで,犯罪を犯した男のリスタートという重いテーマに挑んでいる。

「結婚~」と同様に登場人物は少なく,事件らしい事件が起きる訳ではないのだが,小さなエピソードが一人一人の感情に与える影響を丹念に拾い上げるという姿勢は変わらず,好感が持てる仕上がりだ。「崖の上のポニョ」の主題歌を歌った大橋のぞみの笑顔も期待通りの可愛らしさだが,何といっても彼女の養父役の遠藤憲一が,阿部寛に一歩もひけを取らない素晴らしい演技を見せている。
今回のドラマにおける阿部と遠藤が置かれたシチュエーションは,実は一昨年の堤幸彦の佳作「自虐の詩」における設定の変形に他ならないのだが,あれから2年を経て二人のコンビネーションには一層磨きがかかったように見える。最も,少ない出番(写真での登場が殆ど)にも拘わらず,美しく気高い「聖母」というイメージを定着させた紺野まひるが,出演者の中では一番高いコストパフォーマンスを発揮したのかもしれないのだが…。

重たいドラマと言えば,人気アイドル2人が主演しているTBS「スマイル」もなかなか重い。脚本の宅間孝行は,前科ある者の更生,人種差別,麻薬,食品偽装,チーマーの抗争,犯罪者家族と報道被害等々,どれか一つだけを取り出しても社会派ドラマとして成立し得るような素材=試練を,次から次へと繰り出しては,松本潤と新垣結衣という主役コンビを虐めまくっている。

若く純粋な二人の笑顔は,タイトルに実体を与えるだけの輝きを有しているように見えるが,肝心の物語の方はこれまでのところ,上記のエピソードの繋ぎ合わせに終始しており,やや散漫な印象を免れない。最終的には幹となりそうな小栗旬関連の話が展開する前に,主要な登場人物の一人,社長の前田吟を退場させてしまったことも合点がいかなかった。

だが,そういった欠点を補って余りあるのが,椎名林檎の主題曲「ありあまる富」の素晴らしさだ。「東京事変」での活動からソロ名義に戻っての第1弾となる,アコースティックギターの静かなストロークによるイントロが印象的な佳曲は,ドラマにおける使われ方も巧みで,TVドラマから生まれるヒット曲が途絶えつつあった近年では,圧倒的と言える魅力を放っている。
いっそ「流星の絆」における中島美嘉のような形で,椎名本人が登場して凄みのある「スマイル」を見せれば,滅茶苦茶盛り上がるのではないかとも思うのだが,そうなったらなったで「臨場」の倉石の台詞ではないが,「根こそぎ」持って行かれるか…。
(この項終わり)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 2009年TVドラ... キリンカップ2... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。