ABBAほど「世界を席巻した」という大仰な宣伝文句が似合うグループは,他にないだろう。私が小学生の時,鄙びたポップス「木枯らしの少女」がラジオのリクエスト番組にかかっていたスウェーデンのデュオ「ビヨルン&ベニー」が,いつの間にやらそれぞれのパートナーと共に4人組として再デビューしたのが1973年。
それから36年。シドニー・オリンピックの閉会式で,英国で活躍する豪州人のカイリー・ミノーグが彼らの「ダンシング・クイーン」を歌ったことでも分かるように,そのヒット曲の殆どは,最早手品師のお笑いBGMと化したポール・モーリアの「オリーブの首飾り」と同様に,アーティストの国籍を飛び越えた世界のスタンダード・ポップスと呼び得る存在になったという意見に異論を唱える人は少ないだろう。
だが,やっぱりABBAは何だか気恥ずかしい。どの曲もサビがシンプル過ぎ,かつくっきりとし過ぎている。細かなニュアンスは常にメロディの勢いに塗りつぶされてしまい,歌詞に滲み出てくるような世界観も当然のごとく,何もない。
にも拘わらず,正にメロディとベタな展開以外に「何もない」としか言いようのない「ダンシング・クイーン」のイントロを聴く度,何故か我知らず浮き立つ気分になってしまう自分が気恥ずかしい。レンタル屋で借りてきた「GOLD」を,iTunesに入れてしまう自分が更に気恥ずかしい。
世界には私のような受け止め方をしている人もどこかに存在するとは思うのだが,どうもメリル・ストリープはそうではないらしい。
渋い演技派の権化みたいな彼女が,娘の結婚式に20年振りに現れた3人のボーイフレンドとの再会に揺れる母親役を,ゆるゆるゆさゆさと踊り唄いながら演じる姿は,笑ってしまうほどに恐ろしい。照れや気恥ずかしさなどの感傷が微塵も感じられない彼女のはじけ振りは,ミュージカルの映画化でありながら,映画的な技巧から遠く隔たった所に居場所を見つけようとしている本作の呼吸に,見事にフィットしている。ある意味,本物のプロという評価も成り立つのかもしれない,と本気で思うほどに。
映画館のポスターには,「ミュージカル史上NO.1の観客動員」と書かれていたが,確かに世界中の「気恥ずかしくない」ABBAファンを動員すれば,それくらいの成績は上げられるのかもしれない。しかし「気恥ずかしい」ABBAファンの私は,メリルの開脚跳躍の見事さ以外に心を動かされることはなかった。
多分,007シリーズの敵に捕まって「歌を唄え!」という拷問を受けているようにしか見えなかったピアース・プロズナンも,同じ気持ちだったのではないかと思うが,どうだろう。
★★
(満点は★5つ)
それから36年。シドニー・オリンピックの閉会式で,英国で活躍する豪州人のカイリー・ミノーグが彼らの「ダンシング・クイーン」を歌ったことでも分かるように,そのヒット曲の殆どは,最早手品師のお笑いBGMと化したポール・モーリアの「オリーブの首飾り」と同様に,アーティストの国籍を飛び越えた世界のスタンダード・ポップスと呼び得る存在になったという意見に異論を唱える人は少ないだろう。
だが,やっぱりABBAは何だか気恥ずかしい。どの曲もサビがシンプル過ぎ,かつくっきりとし過ぎている。細かなニュアンスは常にメロディの勢いに塗りつぶされてしまい,歌詞に滲み出てくるような世界観も当然のごとく,何もない。
にも拘わらず,正にメロディとベタな展開以外に「何もない」としか言いようのない「ダンシング・クイーン」のイントロを聴く度,何故か我知らず浮き立つ気分になってしまう自分が気恥ずかしい。レンタル屋で借りてきた「GOLD」を,iTunesに入れてしまう自分が更に気恥ずかしい。
世界には私のような受け止め方をしている人もどこかに存在するとは思うのだが,どうもメリル・ストリープはそうではないらしい。
渋い演技派の権化みたいな彼女が,娘の結婚式に20年振りに現れた3人のボーイフレンドとの再会に揺れる母親役を,ゆるゆるゆさゆさと踊り唄いながら演じる姿は,笑ってしまうほどに恐ろしい。照れや気恥ずかしさなどの感傷が微塵も感じられない彼女のはじけ振りは,ミュージカルの映画化でありながら,映画的な技巧から遠く隔たった所に居場所を見つけようとしている本作の呼吸に,見事にフィットしている。ある意味,本物のプロという評価も成り立つのかもしれない,と本気で思うほどに。
映画館のポスターには,「ミュージカル史上NO.1の観客動員」と書かれていたが,確かに世界中の「気恥ずかしくない」ABBAファンを動員すれば,それくらいの成績は上げられるのかもしれない。しかし「気恥ずかしい」ABBAファンの私は,メリルの開脚跳躍の見事さ以外に心を動かされることはなかった。
多分,007シリーズの敵に捕まって「歌を唄え!」という拷問を受けているようにしか見えなかったピアース・プロズナンも,同じ気持ちだったのではないかと思うが,どうだろう。
★★
(満点は★5つ)