子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「ホモ・サピエンスの涙」:人間の根源に根差した33粒の涙
「さよなら,人類」から早5年。こんなに短いインターバルでロイ・アンダーソンの新作に出会えるとは思わなかった。作品の公式ホームページには,撮影中のアンダーソン監督のシャツが片方だけパンツからはみ出ている写真が載っているが,まるでその写真も作品の一部のように見えてくる。「さよなら,人類」の人間バーベキュー器のような大きな仕掛けはないが,全てのシークエンスから溢れ出る人間が持つ哀しさとおかしさと素晴らしさに胸が詰まる76分間だ。
全てワンカットで撮られた33のシークエンスはざっくりと,ヒトラーの最期やキリストの受難,シベリアに強制送還される兵士たちの長い行列など,具体的にモデルが浮かんでくるものと,市井の人々の気まずい事件や,なにげない瞬間を捉えたエピソード集に分けられるが,そのふたつは地続きとなって観客が心の底にしまい込んでしばらく忘れていた微苦笑を,強くやわらかい手で引っ張り出す。過去の失敗,今の不都合,変えられない習慣,ほとばしり出る嘆きの声の数々が,混声合唱となって迫ってくる迫力は,これまでのロイ・アンダーソン作品の中でも随一だろう。
33あるエピソードの中で,どれが最も心を揺さぶるか,人気投票をしてみたら,その人の感性が分かるような作品でもある。先日放送された「細かすぎて伝わらないモノマネ」を初めて通して見て,昭和のポルノ作品を彷彿とさせる男女のコンビのネタに拍手喝采を送ったのだが,ひょっとすると人間の可笑しさと哀しさの本質を掴むという点で観ると,深遠な芸術活動とモノマネにはかなり共通するものがあるのかもしれない,とも思わされる。「靴に問題を抱えた女」も「雨の中でずぶ濡れになりながら女の子の靴の紐を結んでやる男」も「聖餐を施すためにふらつきながら教会に入っていくアルコール中毒の牧師」も「過去に傷を負わせた旧友に街角で会っても挨拶を拒否される男」も,世界中のありとあらゆるところに存在し,ふらつきながら生きている。そんな当たり前のことが,悲しく愛おしく思えてくる作品を創り出したアンダーソン監督の柔らかな豪腕に敬意を表したい。
COVID-19禍でうつむいて歩くことが多かった年を記憶に留めると同時に,吹き飛ばしてもくれる今年のベストだ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
全てワンカットで撮られた33のシークエンスはざっくりと,ヒトラーの最期やキリストの受難,シベリアに強制送還される兵士たちの長い行列など,具体的にモデルが浮かんでくるものと,市井の人々の気まずい事件や,なにげない瞬間を捉えたエピソード集に分けられるが,そのふたつは地続きとなって観客が心の底にしまい込んでしばらく忘れていた微苦笑を,強くやわらかい手で引っ張り出す。過去の失敗,今の不都合,変えられない習慣,ほとばしり出る嘆きの声の数々が,混声合唱となって迫ってくる迫力は,これまでのロイ・アンダーソン作品の中でも随一だろう。
33あるエピソードの中で,どれが最も心を揺さぶるか,人気投票をしてみたら,その人の感性が分かるような作品でもある。先日放送された「細かすぎて伝わらないモノマネ」を初めて通して見て,昭和のポルノ作品を彷彿とさせる男女のコンビのネタに拍手喝采を送ったのだが,ひょっとすると人間の可笑しさと哀しさの本質を掴むという点で観ると,深遠な芸術活動とモノマネにはかなり共通するものがあるのかもしれない,とも思わされる。「靴に問題を抱えた女」も「雨の中でずぶ濡れになりながら女の子の靴の紐を結んでやる男」も「聖餐を施すためにふらつきながら教会に入っていくアルコール中毒の牧師」も「過去に傷を負わせた旧友に街角で会っても挨拶を拒否される男」も,世界中のありとあらゆるところに存在し,ふらつきながら生きている。そんな当たり前のことが,悲しく愛おしく思えてくる作品を創り出したアンダーソン監督の柔らかな豪腕に敬意を表したい。
COVID-19禍でうつむいて歩くことが多かった年を記憶に留めると同時に,吹き飛ばしてもくれる今年のベストだ。
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