子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「リチャード・ジュエル」:祝イーストウッド復活。でも一体何歳?
2019年第93回(アカデミー賞よりも古いそう)キネマ旬報ベスト10が先頃発表になり,我らが御大クリント・イーストウッド監督作「運び屋」が堂々の第4位に選ばれた。コンスタントに作品を発表し続け,特に最近は現実に起こった事件や実在の人物をモチーフに選び,どこまでもリアリティを追求する姿勢がこのような高い評価を得てきた訳だが,一方でそれらの作品が持つ独特の「硬さ」が,私にはやや敷居の高さに繋がる部分があったのも事実だ。
マカロニ・ウェスタンに出自を持ち,「ダーティハリー」シリーズで名声を高めてきたイーストウッドが,多くの時と経験を積んだその晩年に「作られた」物語を離れて,「リアリティ・ファースト」の世界に分け入っていく,という彼自身の物語は充分に説得力がある。それぞれの作品も実にパワフルで,凡百の芸術指向映画が到達し得ない,娯楽と芸術性のバランスの取れた境地にいることも確かだ。
だがそれでもなお,近年の諸作にはイーストウッド作品にしか観ることが出来ない「崇高だけれども面白い」要素に欠けているという印象は拭えなかった。その意味で新作「リチャード・ジュエル」は,「グラン・トリノ」以来と言っても良いくらいに「イーストウッド印」鮮やかな作品と,自信を持って言い切れる出来映えだ。
ここに来て本物の映画ディレクターだけが持つコクのある語り口を展開できたのは,何よりも素晴らしい役者チームを得たことが大きい。主人公の警備員を演じるポール・ウォルター=ハウザーは,正義感に溢れ純粋過ぎるが故に,FBIから容疑者としてマークされてしまう,謂わば「行き過ぎたプロファイリングの犠牲者」の戸惑いを,自然体で演じて見事。そんな彼を案じて,感動的な声明を絞り出すキャシー・ベイツは,あの「ミザリー」で世界中の小説家を震え上がらせたサイコの,対極の存在のような健気な母を,完璧に演じて涙を誘う。そして孤立無援の彼を助ける弁護士役のサム・ロックウェルは,今や敵なし状態の万能役者と化したように見える。「スリー・ビルボード」で火がついた役者魂は,「ジョジョ・ラビット」で加速され,本作では血も涙もない表層的なプロファイリング主義を蹴散らす頼もしい同志を,余裕綽々で作り上げてみせる。
作品全体を俯瞰すると,ジュエルを犯人だと断定するFBIの描写が紋切り型だったり,同じく彼を追い詰めるテレビ・リポーターが自らの過ちに気付くプロットが極めて軽かったりといった瑕も目に付く。しかしそれらが気にならなくなるほど,映画のリズムと役者の呼吸がシンクロして作り上げた物語は,観客の心を強く揺さぶる。オスカーには無縁だったが,示唆するものが多い本作の懐の深さは「パラサイト」に劣らないと断言する。
★★★★★
(★★★★★が最高)
マカロニ・ウェスタンに出自を持ち,「ダーティハリー」シリーズで名声を高めてきたイーストウッドが,多くの時と経験を積んだその晩年に「作られた」物語を離れて,「リアリティ・ファースト」の世界に分け入っていく,という彼自身の物語は充分に説得力がある。それぞれの作品も実にパワフルで,凡百の芸術指向映画が到達し得ない,娯楽と芸術性のバランスの取れた境地にいることも確かだ。
だがそれでもなお,近年の諸作にはイーストウッド作品にしか観ることが出来ない「崇高だけれども面白い」要素に欠けているという印象は拭えなかった。その意味で新作「リチャード・ジュエル」は,「グラン・トリノ」以来と言っても良いくらいに「イーストウッド印」鮮やかな作品と,自信を持って言い切れる出来映えだ。
ここに来て本物の映画ディレクターだけが持つコクのある語り口を展開できたのは,何よりも素晴らしい役者チームを得たことが大きい。主人公の警備員を演じるポール・ウォルター=ハウザーは,正義感に溢れ純粋過ぎるが故に,FBIから容疑者としてマークされてしまう,謂わば「行き過ぎたプロファイリングの犠牲者」の戸惑いを,自然体で演じて見事。そんな彼を案じて,感動的な声明を絞り出すキャシー・ベイツは,あの「ミザリー」で世界中の小説家を震え上がらせたサイコの,対極の存在のような健気な母を,完璧に演じて涙を誘う。そして孤立無援の彼を助ける弁護士役のサム・ロックウェルは,今や敵なし状態の万能役者と化したように見える。「スリー・ビルボード」で火がついた役者魂は,「ジョジョ・ラビット」で加速され,本作では血も涙もない表層的なプロファイリング主義を蹴散らす頼もしい同志を,余裕綽々で作り上げてみせる。
作品全体を俯瞰すると,ジュエルを犯人だと断定するFBIの描写が紋切り型だったり,同じく彼を追い詰めるテレビ・リポーターが自らの過ちに気付くプロットが極めて軽かったりといった瑕も目に付く。しかしそれらが気にならなくなるほど,映画のリズムと役者の呼吸がシンクロして作り上げた物語は,観客の心を強く揺さぶる。オスカーには無縁だったが,示唆するものが多い本作の懐の深さは「パラサイト」に劣らないと断言する。
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