子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「家へ帰ろう」:予定調和を超える力

2019年02月02日 15時11分33秒 | 映画(新作レヴュー)
このところ,実話に基づくナチス関連の作品が立て続けに公開されているが,本作もフィクションながら,そういった一連の歴史検証ムーヴィーの流れの中に位置付けられる作品と言える。祖父の家庭が「ポーランドという言葉がタブーであった」というパブロ・ソラルス監督にとって,「ドイツを通らずにポーランドに行くのだ」という強い決意のもとでアルゼンチンからポーランドへと人生最後の旅をする主人公の姿を描くことは,自らのルーツを確認する作業でもあったことだろう。

ホロコーストを逃れてアルゼンチンへ逃れた仕立屋のアブラハム(ミゲル・アンヘラ・ソラ)は,老いた父を施設に入れようとする子供たちに逆らって,ある使命を果たすために遠く離れたポーランドに向かって旅立つ。それは大戦時にナチスの迫害に遭ったアブラハムを助けてくれた青年に,人生最後の作品=スーツを届けるという人生最大のミッションだった。
子供たちに頼らず「ドイツ」「ポーランド」という言葉を口にせずに辿る旅は,トラブルとハプニングの連続だ。ただ数多の艱難辛苦の末に辿り着いた先に待っていたのは,アブラハムと同じ仕立屋を続けていた命の恩人だった,というハッピーエンドの物語は,視点を変えれば「予定調和の感動作」と言えなくもない。

だが「家へ帰ろう」がそんな括りを超えて観客の心を揺さぶったのは,脚本も担当したソラルスの巧みな作劇と映画的な節度の美しさだ。
映画の冒頭に,祖父との写真撮影を嫌がる孫娘を懐柔しようとするやり取りが描かれているのだが,それが後にスペインで再会する,それまで折り合いの良くなかった娘とのプロットに繋がっていく流れは,一筋縄では行かない「血縁」というものの厄介さをひっそりと,しかし強固に浮き彫りにする。その一方で,アブラハムが旅で出会う人々とのエピソードは,どれもロマンティシズムに流れることなく,ドライに描かれているところが素晴らしい。ちなみに宿屋の女主人を演じたアンヘラ・モリーナは,ベルリンが「シン・レッド・ライン」に金熊賞を与えたときの審査委員長とのこと。

フライヤーにはこの作品が観客賞を獲得した映画祭が幾つも列挙されているが,「アトランタ」「ロサンゼルス」「ワシントン」「フィラデルフィア」と,「ユダヤ人映画祭」と銘打たれたものが四つもあることが目を惹く。第2次世界大戦から74年という歳月を経てなお,自らのルーツを冠に掲げ続ける映画人たちの強い思いを,遠く離れた島国で想像しつつ,老人の姿に笑って涙する。そんな時間を提供してくれた,戦争を知らない世代の監督に熱いエールを。
★★★☆
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。