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映画「必死剣鳥刺し」:画面,役者共に古典の風格を感じさせる秀作

2011年02月20日 18時44分06秒 | 映画(新作レヴュー)
「必死剣鳥刺し」。まるで「必殺スペシウム光線」みたいな題名に感じられたこともあって,藤沢周平の原作を知らない私にとって敷居はかなり高かったのだが,昨年ブームとなった一連の時代劇作品の中でも,風格という点ではずば抜けた出来だ。時代劇は2作目となる平山秀幸は,時間軸を巧みに操ることでゆっくりとした展開に随所でうねりを与えつつ,豊川悦司の予想外とも言える重量感とアクションスターとしての踏ん張りを活かした語り口で,静かだが力強い物語を繰り広げてみせる。

全体としてはオーソドックスな時代劇を指向しながらも,時系列を超えてエピソードを配置した構成は,モノクロを上手く使った画面転換によって,スムースに物語を動かす要素として完璧に機能しており,技巧に落ちるという印象は全く受けない。
主人公の三左エ衞門(豊川悦司)が藩主(村上淳)の側室(関めぐみ)を殺めながら,何故打ち首にならなかったかという理由を人情話と思わせて引っ張り,最後で一転させてタイトルの文字通りの意味を突きつけるストーリー展開にも,穴は見当たらない。

だがそんな物語と演出に呼応して,堂々たる風格を備えた作品になり得た最大の要因は,自然光を基調としながらも「映画俳優」が作り出す微妙な表情を,柔らかく深い色調で鮮やかに撮し取った画面作りにあると思う。
薄暗いセットで陰影のエッジを強調した画面作りが主流となってきた現代の時代劇にあって,スター・システムの香りを再現したような画面を生み出したのは,長く奥田瑛二監督作品を手掛けてきた撮影監督の石井浩一だ。撮影協力というクレジットで柴崎幸三の名があったが,照明の椎原教貴と組んで成し遂げた石井の仕事は,この大ヴェテランの業績に匹敵するレヴェルに達していたと言えよう。

暴君に対する憤懣を共有していたであろう三左エ衞門と帯屋(吉川晃司)の幻の連帯と対決という悲劇と,三左エ衞門を慕う姪(池脇千鶴)の秘めた思い。三左エ衞門の「組織人」としての悲哀という主題を支える,これら二つのサブプロットも,吉川,池脇という芸達者の熱演を得て,メインプロットに劣らない輝きを見せている。
特に出番の少ない敵役ながらも,武士としての矜持を見事に表現した吉川の演技は,ラストの凄まじいアクションも含めて,俳優人生のハイライトとも言えるものだ。

平山秀幸は原作,俳優,そしてスタッフに恵まれ,往年のメジャー・システムによる古き佳き時代劇,それにリアルな斬り合いを売りにしたモダンなアクション・チャンバラと,正三角形を成すようなポイントを見つけたように見える。この後が続くとは思えないが,それでも辿り着いた地点の標高は高い。
★★★★
(★★★★★が最高)


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