子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「ドリーム」:曇った目をこじ開けるハイヒールの靴音
この作品を観る前日,毎年この時期に開催されている札幌国際短編映画祭に出掛け,世界中から集まったショートフィルムを鑑賞した。独自のアイデアやヴィジョンを誇る幾つもの作品を観ながら,改めて「頭の中のヴィジョンを具体化するための技術」の重要性に気付かされる結果となった。「商業主義」や「娯楽性」という,一見ネガティブなイメージを纏うレッテルの下に隠された高度な作劇術を最大限に発揮した作品に接することもまた,映画を観続ける理由のひとつなのだ。非商業主義の実験映画を作り続ける人々にとっては,そのウェルメイドな出来上がりが批判の対象になるかもしれないセオドア・メルフィの「ドリーム」には,あっと驚く斬新さこそないけれども,作品が内包する豊かで熱いメッセージが,観た人の心で長く熾火のように燃え続けることは間違いない。
ヒラリー・クリントンが「ガラスの天井」を打ち破れず,ドナルド・トランプの軍門に下ったおよそ50年前,ガラスはおろかコンクリートか鋼鉄で構築された天井を突き抜けようとNASAで奮闘した女性たちの物語。
「ドリーム」がこれまでに数多制作されてきた黒人差別,女性差別をテーマとした作品群の最上位にランクされる作品となった一番の要素は,テーマは熱いのに,声高な主張は避け,終始冷静な視点を持ち続けたメルフィ(アリソン・シュローダーと共同)の優れた脚本だろう。ヒロイン(タラジ・P・ヘンソン)の恋人である黒人男性に当初女性蔑視の態度を取らせたことに象徴されるように,差別の視点を単純化しなかったことが魅力の一つだが,黒人にも女性にも偏見を持たず,彼女たちの庇護者の役割を果たす上司(ケヴィン・コスナー)ですら,有色人種が使えるトイレが職場にない,という事実に気付いていなかったエピソードが,何よりもこの感動的な物語の核となっている。肌の色や性の違いへの偏見が,意識的な差別というよりも,無意識の視野狭窄がもたらしたものかもしれない,という指摘は重い。コスナーがトイレの標識をたたき壊すシークエンスを社会への抗議と見るか,自分が何も分かっていなかったことへの懺悔と見るかで,評価は分かれるはず。
プロデューサーにも名前を連ねたファレル・ウィリアムスの楽曲,主役3人の見事なアンサンブルも素晴らしいが,完全な汚れ役を完璧にこなして見せたキルステン・ダンストのプロ根性にも拍手したい。
掛け値なしに,すべての女性と「自分は何事に対しても偏見はない」と主張する男性すべてにお勧めしたい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
ヒラリー・クリントンが「ガラスの天井」を打ち破れず,ドナルド・トランプの軍門に下ったおよそ50年前,ガラスはおろかコンクリートか鋼鉄で構築された天井を突き抜けようとNASAで奮闘した女性たちの物語。
「ドリーム」がこれまでに数多制作されてきた黒人差別,女性差別をテーマとした作品群の最上位にランクされる作品となった一番の要素は,テーマは熱いのに,声高な主張は避け,終始冷静な視点を持ち続けたメルフィ(アリソン・シュローダーと共同)の優れた脚本だろう。ヒロイン(タラジ・P・ヘンソン)の恋人である黒人男性に当初女性蔑視の態度を取らせたことに象徴されるように,差別の視点を単純化しなかったことが魅力の一つだが,黒人にも女性にも偏見を持たず,彼女たちの庇護者の役割を果たす上司(ケヴィン・コスナー)ですら,有色人種が使えるトイレが職場にない,という事実に気付いていなかったエピソードが,何よりもこの感動的な物語の核となっている。肌の色や性の違いへの偏見が,意識的な差別というよりも,無意識の視野狭窄がもたらしたものかもしれない,という指摘は重い。コスナーがトイレの標識をたたき壊すシークエンスを社会への抗議と見るか,自分が何も分かっていなかったことへの懺悔と見るかで,評価は分かれるはず。
プロデューサーにも名前を連ねたファレル・ウィリアムスの楽曲,主役3人の見事なアンサンブルも素晴らしいが,完全な汚れ役を完璧にこなして見せたキルステン・ダンストのプロ根性にも拍手したい。
掛け値なしに,すべての女性と「自分は何事に対しても偏見はない」と主張する男性すべてにお勧めしたい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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