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映画「女王陛下のお気に入り」:ついに来た,ランティモスの時代

決められた期間内に結婚相手を見つけないと動物になってしまう世界。自分の母親の相手をしなかったことを逆恨みして,男に自分の家族を殺すよう迫る少年。「ロブスター」も「聖なる鹿殺し」も,実に暗くも熱いエネルギーに満ちた作品ではあったものの,とてもではないけれど天下のアカデミー会員の多くから拍手を得られるような作品ではなかったことは確かだ。それ故に,今回のアカデミー賞の本命候補扱いは驚き以外の何物でもない。しかしギリシャの星,ヨルゴス・ランティモスの新作「女王陛下のお気に入り」は,フライヤーに書かれている通り,まさに「ドラマティックとエレガントを極めた一大エンターテインメント」だった。逆にこれが取らずに「ROMA/ローマ」が取ってしまったとしたら(勿論,作品自体はキュアロン畢生の圧倒的な傑作ではあるけれども),「劇場のスクリーン」というシステムの敗北という,認めたくない未来の足音がその速度と音量を高めることになるだろう。女王,ここが踏ん張りどころです。

18世紀初頭のイングランドの王宮ドラマを撮る。ランティモス,どうした?と訝ったファンは大勢いたはずだが,堂々とゴール真正面から放たれた無回転のシュートは,大方の期待を裏切ることなく不規則な軌道を描いて,見事にゴールに突き刺さった。17人の子供を授かりながらも全員が早世してしまうという不幸に襲われ,今は17匹のうさぎに囲まれながら通風と闘う女王,というキャラクター設定を聞いただけで,ただ重たいだけの王宮ドラマではないと期待は高まるが,それをただ我が侭なだけの女王とはせず,魅力溢れる権力者としての側面を際立たせたオリヴィア・コールマンの力量は特筆もの。彼女の苦悩を描くだけでも充分にドラマとしての奥行きは確保されている上に,野心を抱いた侍女二人が性的な関係も含めて絡んでくるとあっては,まさに大奥満漢全席。特に絶好調状態が続くエマ・ストーンの自信に溢れたビッチ振りは,愛憎渦巻く,というクリシェに新鮮なニュアンスを附加する素晴らしい出来だ。

車椅子で動き回る女王のエネルギーに充分に対抗しているように見える王宮の絢爛さも目に嬉しいが,それを魚眼レンズで捉えたケン・ローチの「お気に入り」撮影監督のロビー・ライアンは,これからあちこちから引っ張りだことなることだろう。更に一見クラッシックに見えて妙にモダンでへんてこりんなダンスや,女王が戦争継続の難しい判断を迫られて気を失ってしまうシークエンスなど,爆笑箇所も満載。全体的な毒はやや薄味ではあるものの,芸術と娯楽の高い次元での融合という点で,満点以外はない,と称揚して,明日のオスカーでの健闘を祈る。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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