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映画「ハクソー・リッジ」:スパイダーマンから信念の人へ

今季のNHKの朝ドラ「ひよっこ」は,前作があまりの出来だった分,余計に素晴らしく感じる部分があることを差し引いても,実に面白い。ヒロインみね子(有村架純)は,超絶的なリーダーシップで事業を成功させる訳でもなく,ひたすら受け身かつ冷静な視座で状況を把握した上で,身の回りに起こることを一つ一つ受け止めていく様を丁寧に描写していくだけなのだが,そのユーモラスなタッチこそ「別嬪」と呼びたくなるような出来だ。中でも先週,いつも笑っているヒロインのおじさん宗男(峯田和伸)が,何故自分はいつも笑っているのかをみね子に話すシーンは,異色の「反戦」シーンになっていた。戦場でイギリス兵と出くわした際のやり取りが,やがて宗男のビートルズ愛へと繋がっていくのだが,こういったさりげない形で戦争の無意味さを訴える大人のドラマが日本に生まれた2017年,豪州出身の監督が,連合国軍が沖縄に上陸した際の戦闘を映画化した作品が日本で公開された。

メル・ギブソンが久しぶりにメガフォンを取った「ハクソー・リッジ」は,沖縄の「前田高地」で繰り広げられた激戦の中で,銃を持つことを拒否した一人の衛生兵の姿を描いた作品だ。
構成的には,デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)が信仰上の理由から銃を使うことを忌避したことで上官から執拗ないじめを受ける訓練の状況を描いた前半部と,ハクソー・リッジで勇気と包帯とモルヒネだけを武器に戦場を駆け巡るデズモンドの姿を捉えた後半の2部構成,すなわちキューブリックの「フルメタル・ジャケット」様式を採用している。
その後半部は,ドラマの「ひよっこ」が台詞だけによって静かに反戦を訴えたこととは対照的に,まるで第一次世界大戦かと見紛うばかりの白兵戦を,徹底的にリアルかつ激しいトーンで描き尽くしている。

ギブソンが形作る映像は,特に「反復」の多用に特徴があるが,そのこだわりはこの「ハクソー・リッジ」においても,至近距離の戦闘と「アポカリプト」に続く「疾走」シーンに顕著だ。死の恐怖を越えてデズモンドを突き動かすのは,まるで「人を助けたい」という意志よりも,生きていることを証明するためのアクションそのもののように見える。そのアクションが宿す躍動感が,「ハクソー・リッジ」が観念的な反戦映画とは一線を画す最大の生命線になっている。

惜しむらくは,デズモンドの救助作業をサポートする崖下の部隊が「誰かが一人で救助している」という台詞一つで,彼を「孤軍奮闘するヒーロー」に祭り上げてしまったクライマックスの安易な展開だ。史実に基づいているとは言え,最後まで援軍が派遣されずに彼をひとり高原に放置した理由の説明,エクスキューズが全くないことで,物語の核のかなりの部分が損なわれてしまったように見える。ヒューゴ・ウィーヴィングとヴィンス・ヴォーンという渋めの脇役の活躍を持ってしても,そこは補いきれなかったようだ。極めて残念。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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