子供はかまってくれない

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映画「ノクターナル・アニマルズ」:鋭い鋒をもった復讐の刃

2017年11月25日 12時22分43秒 | 映画(新作レヴュー)
冒頭いきなりスクリーンに,脂肪の塊をまとった中年女性が裸で踊る姿が映し出される。次々と現れる女は皆,観客に向けて,単なる自己顕示とも嘲笑とも誘惑とも取れる不敵な笑みを見せながら,脂肪を激しく上下に揺さぶり続ける。やがてそれは主人公スーザン(エイミー・アダムス)が開いた個展におけるインスタレーションの一部だと判明するのだが,このタイトルバックだけで観客は不穏な緊張感にがんじがらめにされる。
グッチのクリエイティブ・ディレクターだったトム・フォードの「シングルマン」に続く監督作「ノクターナル・アニマルズ」は,モダンなセンスに彩られたモノローグから,暴力と後悔と復讐に満ちたダイナミックな物語へと大きな飛翔を遂げた秀作だ。

現代アートの寵児ともてはやされるアーティスト,スーザンの元に,別れた夫(ジェイク・ギレンホール)から一冊の校正刷りが届けられる。夫は小説を書くと言いながら,結婚している間はそれを実現できず,経済的に自立することが出来なかったこともあって,彼女は彼の元を去っていた。送られてきた小説は妻と娘を暴漢に殺された男の復讐の物語だったが,それはスーザンを不安と後悔で満たすと同時に,その才能はかつて彼女が見込んだ通りのものだったことを確認させる出来映えだった。読み終えた彼女は夫に連絡し,20年振りの再会を果たすべく,待ち合わせの場所へと車を走らせる。

若かりし頃の結婚と離別の判断に対する後悔を,功成り名を遂げた今も引き摺りながら,夫の企みに翻弄されるスーザンを,エイミー・アダムスは貫禄とチャレンジのバランスを巧みに取りながら見事に演じている。過去と現在を行きつ戻りつしながら,最後に大きな決断を下すという役柄は,期せずしてドニ・ヴィルヌーヴと組んだ「メッセージ」をも想起させる。「魔法にかけられて」から10年,もう大女優と呼んで差し支えないだろう。
夫を過去と小説の登場人物に限定し,現在の姿を最後まで出さない脚本の仕掛けも鮮やかだったが,まだ36歳ながら「中年」になりきったジェイク・ギレンホールの演技も見事。

更に彼ら二人を取り囲む助演陣も素晴らしい。特に小説の中で犯人を追い詰める刑事役のマイケル・シャノンは,虚実の境界が曖昧な登場人物だらけの中で,スーザンの母(ローラ・リニー。ビーハイブ・ヘアーが凄まじい)と共にぶれない軸として物語を支えている。アーミー・ハマーやアーロン・テイラー=ジョンソンの輝かせ方も含め,さまざまな技を繰り出して群像劇を作り出して見せたフォードは,もはやデザイナーの余技を超えた,完璧な演出家だと断言したい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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