学芸員さんの来館日、
スパゲッティ・ミートソースを作ってやる。
大食いなので大盛りに。
学生の頃
スパゲッティといえば東京でも
ナポリタンとミートソースぐらいなもので
現在のようにポモドーレもボンゴレもカルボナーラも
洒落たメニューは無かった。
その頃 同じクラスに
二歳年上のスマートな男がいて
彼に誘われて初めてのライブショウ
「マルセル・アモン」を聴いた。
たしか厚生年金ホールだったように記憶している。
その帰りに新宿のどこかでナポリタンを
ご馳走になったのだが
スタンダールのジュリアン・ソレルのような
あるいは大正浪漫チシズムを彷彿させる彼に
シャンソンもナポリタンも上の空であった。
野菜をいっさい食べない彼が
ナポリタンの中の小さな野菜を一つ一つ
フォークで除いて食べる様子を僕はうっとりと
見惚れていた。
夢見るような美しい瞳に見つめられるだけで
ぼくはしあわせであった。
しかし危ないな。
ナポリタンは青春時代の危ない関係を連想し
今でも魅惑的な一品である。
冬晴れの空を駈けゆく消防車