立冬

　暦の上では冬。確かに風が冷たい。それでも湘南は都内や横浜に比べて暖かい。ここを離れられないのは、この気候かも知れない。花作りがさかんなので１年中、バラが安く手に入る。部屋中をバラで飾る時間は、一番幸せを感じるときかもしれない。

　冬に向かうこの季節が好きだ。外に出るとピンと背筋が伸びる感じで、まだ寒さも厳しくなく、紅葉を一日一日と楽しむことが出来る。冬へ向かう準備を少しずつしていくような、そう、人生もそんな時期なのかもしれない。

　人生を楽しむとか幸せに包まれているという感じは、30代や40代はなかった。ただ、精一杯生きてきた。余韻のない人生だった。小春日和の日差しの中にいるようにそのあたたかさを、そのぬくもりをしみじみと感じるようになった。ゆったりと時が流れ、やがて動かない冬がくるのだろう。