■ストーリ
春の近づくある日、僕・坂木司と鳥井真一のもとを二人の老人が
訪ねてきた。僕らの年上の友人でもある木村栄三郎さんと、
その幼馴染みの高田安次朗さんだ。高田さんがボランティアとして
働く動物園で、野良猫の虐待事件が頻発しているという。
はたして鳥井は外の世界に飛び立てるのか、感動のシリーズ完結編。
■感想 ☆☆☆☆
第一弾「青空の卵」の感想は
コチラ
第ニ弾「仔羊の巣」の感想は
コチラ
いよいよ三部作の最終作。今回のテーマは
「自分と他人との距離」そして「大人になるということ」。
坂木さんの作品、特にこのひきこもり探偵シリーズは
人の善意を信じて、描かれている。人が人を思い合っているにも
関わらず、その想いがうまく伝わらない。その結果、生じる誤解。
その誤解を坂木さんと鳥井君が解きほぐしていく。
けれども最終作であるこの作品では、人の善意だけではなく
悪意にも焦点をあてている。悪意、ではないかもしれない。
思いやりのない人間、想像力のない人間が存在すること。
その結果、生じる人と人との間の壁。
そういったものをテーマにしている。鳥井君の言葉で言うならば
「言葉が通じない人間」。自分の世界観を絶対にまげない人間。
自分にとって良いもの(たとえばブランド、学歴)は
他人にとっても良いものだと思い込んでいる人間。
彼らは想像力が足りない。自分にとって大事なものが
他人にとっても大事なものだとは限らない。他人も同じものに
同じように価値を見出しているとは限らない。逆もまた然りである。
自分にとって無価値なもの(たとえば貧乏な知り合い、
ひきこもりのクラスメイト、中卒の同僚など)がみんなにとって
無価値だとは限らない。誰かにとっては大切な存在かもしれない。
けれども、そうは思わない。思えないのである。
そういった想像力の欠如が生み出す罪をテーマにしている。
それらは確かに存在していて、そして、「言葉が通じない」からこそ
どうすればいいのかわからず、私は小説の世界の中の人物にまで
なんとも言いようのない焦燥、やりきれなさを感じる。
もっとも、この作品内では、そういった想像力のない人間とも
じっくりと話し、語り合うことで分かり合うことができる。
その部分だけは、若干の物足りなさ、疑問を感じた。
果たしてこんなにうまく分かり合えるものなのか。
けれども、そういうものなのかもしれない。
想像力が足りない人間にも、詳細に、きちんとなぜ嫌なのか、
何が辛いのか、何を不快に感じているのかを話せば
分かってくれるのかもしれない。
つまり、きちんと話さない限り、もしくは自分も同じことを
経験しない限り、分からないのかもしれない。
そんなことを考えながら読んだ。
鳥井君がひきこもりになった原因、そして鳥井君と坂木くんが
共依存の関係となっ原因の人物と対峙したふたりは
小さな部屋から大人の世界に羽ばたこうとする。
その必死さに終盤はひたすら目頭を熱くしながら読み進めた。
以下の文章は、心から共感した文章、そして、
この三部作が持つ世界観をよくあらわしていると感じた文章だ。
私もこういう優しい円を描きたい。
「お土産をくれる人がいて嬉しい。
お土産をあげる人がいて、もっと嬉しい。
誰かを重い、誰かに思われる。
そんな美しい円を僕も描くことができたら。
そう思うんだ。」