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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

晩秋のキノコ狩りに偲ぶ山仲間の笑顔と落葉松の黄金色の雨(妻女山里山通信)

2013-11-25 | アウトドア・ネイチャーフォト
 例年よりもかなり遅い秋の進行で、ムラサキシメジも全く見られなかった妻女山ですが、やっと霜が降りて、早朝には名物の川中島の霧も見られるようになったので、これは出ただろうと山に向かいました。本来なら11月初旬には出るキノコですから、三週間ぐらい遅れているということです。

 川中島合戦の際に、上杉謙信が七棟の陣小屋を建てたと伝わる陣場平に行くと、枯れ野原ではあるものの、まだ緑が色濃く残る様に驚かされました。信濃柿も例年なら、もう木になったまま干し柿になり始めているのですが、まだぷっくりとしています。干し柿になって落下したものは、タヌキなど森の動物たちの冬の重要な食料になります。信濃柿は渋柿ですが、干し柿になると甘く、非常に美味しいのです。二年前には、青い実を採って柿渋も作りました。

 知っているムラサキシメジのシロを五カ所ほど回ったのですが、雨が降っていないため、見つかったのは5本だけ。森の貴婦人は、写真の様に枯れ葉に隠れているため、所謂キノコ眼がないと発見できません。ムラサキシメジは、落ち葉を白色腐朽する落葉分解菌のキノコなので、主に広葉樹林の林内に出ます。不思議なことに南米を除く世界中に見られるキノコです。フランスでは、ピエ・ブルー(Le pied Bleu)といって高級食材です。豆腐とすまし汁、味噌汁、鍋の具、きのこうどん、バターソテー、グラタン、クリームパスタなど色々合いますが、新信州郷土料理としておすすめしたいのが、ムラサキシメジのおやきです。作り方は、丸ナスのおやきと同様にムラサキシメジを刻んで油と味噌で和え、小麦粉の皮で包み、油で焼いてから蒸します。ムラサキシメジの香りと旨味が閉じ込められて、それは美味しいおやきができあがります。辛党は豆板醤を入れてもいいでしょう。

 キノコ狩りの後で、妻女山里山デザイン・プロジェクトのBBQパーティーをよく開かせてもらったKさんのログハウスに立ち寄りました。落葉松の黄葉をバックに狂い咲きしたヤマツツジが、なんとも奇妙でした。主の亡くなったログハウスは、葬儀の翌日預けてあったものを取りに行ったついでに私が掃除したのですが、さらに重機や散乱していた石も片付けられていて、沈黙の佇まいの中にありました。初夏に切り倒した落葉松の切り株に腰掛けて、暫くログハウスと遠くの北アルプスを眺めていました。彼とはこの冬の伐採計画をたてていました。その計画は、残った仲間たちと粛々と進めて行かなければと思ったのですが、まだ彼がいなくなったことが、どうにも実感できないのです。不思議と悲しいという感情は生まれず、無常感に包まれた静かな時が流れて行きました。「時が去って行くのではない。去って行くのはいつも我々だ」という言葉を思い出しました。彼との付き合いは4年ほどと短いものでしたが、おそらく互いに救われたし、密度の濃いものだったと思うのです。アマゾン辺りを200日放浪したことが10年分の経験に相当した様に、彼との4年間はそれ以上の密度があったと感じています。

 落葉松もやっと黄葉になり、寒風の度にチリチリと音を立てて舞うようになりました。落葉松の黄金色の雨は、信州の晩秋の風物詩。ヒヨドリジョウゴの赤い実や、アオツヅラフジの青い実(どちらも有毒)が目立つようになりました。コムラサキの鮮やかな紫が黄色い森に映えます。かなり遅れてはいますが、季節は確実に移ろっています。森の中に、ノスリに襲われたと思われる土鳩の羽が散乱していました。生物は生物を殺めないと生きてはいけないのです。シロとブランカと名付けたニホンカモシカの母娘にも出会いましたが、すっかり冬毛に変わっていました。

 黄金色に輝く落葉松の葉が木枯らしでみな落ちると、信州にも本格的な冬がやってきます。林道は落葉松の落ち葉で橙色に染まり始めました。霧に濡れた林道を走ると、タイヤに橙色の千鳥格子の模様が付きます。

 連休ということで、妻女山には何人もの人が訪れていました。斎場山へ行くという男性に鞍骨城跡のことを話すと、予定を変更して鞍骨山まで行くことにしたというので、詳しいコースの説明をしたり、ログハウスに訪れた二人のライダーには堂平大塚古墳の説明をしたり。別のライダーには、林道倉科坂線の説明をしたりと、山仕事をしながら、ガイドもこなした錦秋の一日でした。麓では、長芋掘りが最盛期を迎えています。一見平穏な秋の風景ですが、忌まわしき軍国主義の足音が近づいていることを、あなたは知っていますか。OLD JAPAN-1930s 【1930年(S5)頃の日本】たくさん寄せられたコメントが嬉しくもあり、哀しくもあり。平和は命をかけないと守れないというパラドックス。

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★妻女山山系の自然については、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。蝶の写真はこちらにたくさんあります。
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秋の妻女山SDPは、キノコ狩りと地粉ユメセイキでキノコうどん。キノコとセシウム (妻女山里山通信)

2013-11-12 | アウトドア・ネイチャーフォト
 今回の妻女山里山デザイン・プロジェクトは、山林作業は一休みでキノコ狩りを企画しました。ちょうど信州では時候坊(ジコボウ・ジコウボウ)と呼ばれるハナイグチのシーズン。隊員の「キノコ狩りをしたい!」という要望に私が応えたものです。ハナイグチに関しては、出るとなれば落葉松林ならどこにでも出ますから、ホンシメジやマイタケの様にシロを秘密にする必要もない訳です。

 というわけで朝からキノコ狩り。午前中は時折小雨が降る生憎の天気でしたが、森に入るとほとんど濡れません。獣道を歩いて森の奥の落葉松林に到着。斜面をジグザグに下りながらキノコ狩りの開始。苦労することもなく、そこいらじゅうに時候坊の輪菌がありました。隊員達は輪菌を見つけるたびに思わず顔がにやけます。結局持ち帰って広げてみると、ざっと200本以上。充分過ぎるほどの収穫でした。めざとい方は気づいたと思うのですが、なぜ背後に紅白の幕があるのかと。実は大荒れの天気との予報で、N氏が風除けのために持って来たのです。寒々しい雨模様のログハウスに結界が張られ、目出たい空間が出現しました。

 ハナイグチの季節も終わりなので、老菌も多かったのですが、まだ幼菌も見られたので、これからも少しは出るでしょう。季節が半月位遅れている感じです。キノコの、特にセシウムを溜め易いとされる菌根菌については、共生関係にある樹木がセシウムと結合し易いタンニンをどれだけ含むかに因ると思うのです。松は葉に溜めるので松茸への移行係数は低い事が分かっています。ショウゲンジやチャナメツムタケは高めに出るようです。落葉松に出るハナイグチはその中間でしょうか。栗はタンニンを多く含む渋皮に、お茶はタンニンを多く含むので汚染され易い。研究の余地があると思います。塩水に2-3時間浸けて、茹でこぼす除染は必要です。いずれにせよ高い汚染地のものは食べるべきではありません。

 11時からは、昼食の準備です。予め私とS氏が用意して来た時候坊とムキタケ、聖護院蕪、人参、長ネギ、白菜、長芋、竹輪、鶏のつみれで汁を作ります。その間に、N氏は地粉のユメセイキで、うどんを打ちます。昔は埴科更級の家には必ずあった小野式製麺器で。ユメセイキは、主に千曲市で作られている長野県生まれの品種なんですが、なめらかで、粘りとこしがある美味しい小麦です。信州といえば信州蕎麦が有名ですが、実は長野市は、全国の県庁所在地で、あの讃岐うどんの松山市よりも小麦粉の年間購入量が多いのです。まあ、うどんにおやきもありますからね。当然でしょう。讃岐うどんは喉で食べると言うそうですが、信州のうどんはすすって咬んで味わいながら食べます。特に幻のイガチクオレゴンなどは、すすりたくてもすすれません。それくらいしっかりしています。

 大鍋でうどんを茹でたら、ゆで汁を捨て、キノコ汁を入れて煮てできあがり。さっそくすすってみると、これが絶品! 地粉のユメセイキは、漂白されておらず灰白色で、皮の粒も入っています。もちもちしてキノコと野菜の出汁がしみ込んで野趣豊かな旨さが溢れています。ここに辛味大根のおろしを入れて食べると、また格別。実は今回、突然の決定だったので欠席者が続出し、N氏は8人前を打って来たのですが、4人でほとんど食べ尽くしました。まあ、それぐらい旨かったということです。

 食後は、薪ストーブの周りで山談義。雨も強くなり一時は里の風景が真っ白になりました。今年からK氏が幻のイガチクオレゴンを作り始めたので、来年はそれでキノコうどんや信州でも埴科と更級でしか食べられない郷土料理、おしぼりうどんを作りたいものです。個人的には、大好きな苧環蒸し(おだまきむし)も作ってみたいし、牡蠣のみぞれうどんも作りたい。聞いた事も、もちろん食べた事もないでしょうけれど、鯨うどんというのもあるのですよ。こういう美味しい郷土料理も、TPPに入るといずれ全てなくなるんです。分かっているでしょうか。

 写真は、別の日の夕焼けです。左端手前が斎場山で、右奥に仁科三山の爺ヶ岳のシルエットが見えています。北アルプスも北の白馬三山はもう真っ白で、徐々に南へその白さが移って行きます。善光寺平にも初霜が下りました。野沢温泉など信州北部では本格的な雪も降ったようです。信州では、短い秋が終わり、長い冬が始まります。いきなりの寒さに体が慣れるまで少し辛い日々が続きますが、落葉すると大雪が降る前までが山仕事の最盛期ともなります。椎茸のほだ木のためや、ストーブのための薪作りのために樹木の伐採が始まります。獣害駆除の狩猟も始まるので、この時期に山に入るときは目立つ恰好と鈴やホイッスルが必携です。雪が降ると、アニマル・トラッキングの季節です。冬の楽しみが待っています。

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やっと出た時候坊(ジコボウ・ジコウボウ)200本 (妻女山里山通信)

2013-11-01 | アウトドア・ネイチャーフォト
 あまり一般的ではないかもしれませんが、私はキノコの出るタイミングを「雨後5日」と言っています。キノコによってはもの凄く成長の早いものもあるので、必ずしもその通りではないのですが、一応の目安としています。今年は10月になって30度などという日が続いたので、地温が高くいつまでたっても秋のキノコの本命、信州では時候坊というハナイグチが出ませんでした。まず先にシロヌメリイグチとヌメリイグチが出ますが、それも皆無。これは不作だった昨年のように時候坊なしでムラサキシメジの季節になってしまうかなと思いました。ところが、ここに来て雨が続き、最低気温も下がったので森に入ってみることにしました。

 まずは、ムキタケを探しに谷に下りました。ムキタケの大きなシロは三つ程知っているのですが、最初のシロは前日に他の人が入っていました。しかし、出始めだったようで、ほとんど採れなかった模様。そこで二つ目、三つ目のシロへ行くと、まずまずの収穫。ムキタケは、水分を含むので重いのです。2キロぐらいになりました。つるんとした食感が絶妙で、うどんや鍋に合います。

 そして本命の時候坊(ジコボウ・ジコウボウ)のシロへ。時候坊というのは、この時期採れるイグチ科のキノコの総称で、シロヌメリイグチやヌメリイグチも含まれますが、主にハナイグチのことです。強いぬめりがあり、甘い香りと、旨い出汁がでるのが特徴です。これで作る鍋や豆腐との煮物(醤油でも味噌でもOK)、手打ちうどんで鍋焼きうどんなどにすると最高です。落葉松と共生関係をもつ菌根菌なので、セシウムを貯め易いため、高汚染地のものは食べるべきではないし、そうでない場所のものも塩水に浸けてから茹でこぼして除染すべきです。西日本も例外ではない。チェルノブイリの例を見れば、マイクロ・ホット・スポットは、日本全国どこにあってもおかしくはないのです。常食にすることはないので、汚染地の魚介類や農産物を常食するよりは遥かに安全でしょうけれど。ショウゲンジやチャナメツムタケより、松茸や時候坊の方が、同じ菌根菌でもセシウムの移行係数が低いのは、興味深いところです。

 結局、ポイントを入念に回って、大きなバケツ一杯分ほどが採れました。200本位はあるでしょう。出始めのクリタケも二株ほど。細胞が球形なので壊れにくいため、一度冷凍するとよく出汁がでます。近くには猛毒のニガクリタケも出ていました。見分けが出来ないときは、軽く咬んでみることです。ニガクリタケは、本当に嫌な苦みがあります。すぐに吐き出せば大丈夫です。間違って食べて死亡例もあるので、目視だけでの確認は危険です。

 ムキタケの谷から登って来る途中の杉の倒木に、ニカワハリタケが大量に出ていました。前日に入った人が一応採ってみたものの、捨てて行った跡がありました。食べられるかどうか分からなかったのでしょう。これは別名を「猫の舌」という食菌です。なんか猫が小さな舌をペロッと出したように見えませんか。表面がちょっとザラザラしています。味は特になく、茹でて黒蜜をかけたり、みつ豆に寒天代わりで入れるといいそうです。ムキタケの倒木に小さなキノコがありましたが、未同定です。つばがあるような。しかし、ナラタケとも違う様です。

 雨が多く、霜も降りていないので、粘菌(変形菌)も出ていました。マメホコリと赤いのは1ミリもないような、これはアカフクロホコリでしょうか。粘菌については、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】の変形菌(粘菌)をご覧ください。エリック・サティをBGMに使ったスライドショー【【信州の里山】妻女山の変形菌(粘菌)その1 Japanese Myxomycetes vol.1 】も粘菌好きにはおすすめです。世界中からアクセスがあります。その2と、日本の里山 森の変形菌もあります。怪しく美しい粘菌の世界に、必ず魅了されると思います。

 妻女山の紅葉は、まだ始まったばかりで、山桜やヌルデが色付いています。林道が耕耘されたように掘り返されていました。猪の仕業です。先日、なんと140キロのオスが罠にかかったそうです。140キロと言ったら関取ですよ。こんなものに山中で出逢わなくてよかったと思います。
 信州で中毒の多いキノコは、クサウラベニタケ、カキシメジ、ツキヨタケ、ドクヤマドリ、ネズミシメジなどで、いずれも毒キノコです。また、人によっては中毒を起こすキノコもあるので、基本的に天然キノコはそのキノコを食べた事のない人にあげることはしません。チチアワタケ、ハエトリシメジ、シロノハイイロシメジ、ミネシメジ、オシロイシメジ、コガネタケなどです。食べてもなんともない人もいます。食菌のアミタケもあたる人がいますし、信州では一番人気の時候坊(ジコボウ)、ハナイグチも人によってはお腹をくだす人もいます。また、老菌も食べるべきではありません。採って来て不安に思ったら保健所で同定してもらうことです。
 キノコ屋の言葉に「どんなキノコも一度は食べられる」というのがあります。しかし、猛毒のキノコを食べたら二度目はありません。ご注意を。

 麓では、長芋畑のつる壊しが始まりました。乾燥させて燃やします。その壮大な白煙が晩秋の風物詩となっています。これがダイオキシンの原因とか騒がれた時代もありましたが、放射能に比べればダイオキシン等蚤の屁の様なものです。あの青酸カリの2000倍の毒性があるともいわれるセシウムですが、比較にならない程強力な、魚介類に溜まり白血病の原因となるストロンチウムが、汚染水とともに大量に太平洋に流れ出し続けているのですから。昼頃、作業場の照明を替えるべくホームセンターに行ったのですが、一皿90円の回転寿しが満車でした。彼らは自分がなにを食べているのか知らずに、病気になり死んで行くのでしょう。パンデミックは静かに始まっています。日本中、いや地球上で放射能汚染されていないところは、一カ所もありません。気にしない、気にしてもしょうがないと言っている人から、チェルノブイリでは病気になり苦しみながら死んで行きました。信州の秋の長閑な風景を見ていると、つい何事もなかったかのような錯覚に陥りますが、確実に汚染されているのです。

■【信州の里山】キノコの汚染と除染について
 菌根性のキノコと腐性性のキノコに分けて解説しています。文章が長くて読みきれないときは、ポーズボタンをクリックしてください。文字が小さい時はフルスクリーンで。



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