100年経っても武術をしていたわたしは美しい「グランド・マスター」に出てくるチャン・ツィイーは、そう語っていたような気がする。
チャンはひるまない。
チャンは無疵の磁器。
身も心も難攻不落。
こんな表情のできる俳優は、日本にはいない。
欧米にも見たことない。
美貌に自信があるだけではこんな表情はできない。
科学の力を借りても、この次元は保てない。
チャンの向こうを張って、エネルギーの高さで勝負したのが、主役のイップ・マンを演じたトニー・レオン。
彼は強い。
彼は静か。
情感の張力が強い。
決壊しそうな情感が、きわどく維持されている。
このふたりが「グランド・マスター」の磁力となる。
ベースにあるのは武術家イップ・マンの一代記。
ただ、復讐や決闘の名のもと、超的な技を持った超美貌の男女が接近遭遇をし、双曲線のように遠ざかっていくとすれば、ロマンティックな画面が生まれるのは当然。
監督のウォン・カーウァイは、ふたりの美貌と美技を、落下する水滴に例えて描いた。
スローモーションとクロースアップを濫用に近いほど酷使し、それでもなお耽美の姿勢を崩さず、哀切の情感を手放さない。
世界一美しく見せられるのは自分の映像だと確信しているであろうウォンカーウェイ。
「グランド・マスター」はその結実だ。