礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

デング熱の予防はヒトスジシマカの撲滅で

2014-09-04 04:25:44 | コラムと名言

◎デング熱の予防はヒトスジシマカの撲滅で

 昨日のコラムで、「現在、全国各地で、デング熱に感染した例が報じられているが、戦中の長崎における例から見て、このあと一か月間は、さらに感染が拡大してゆく危険性がある」と書いた。
 昨日夕方のテレビニュースで知った事実を踏まえて、少し補足する。今日、全国各地でデング熱を発症している患者は、すべて代々木公園を訪れたことがある人であり、そこでデング熱ウイルスに感染したとされている。それが事実だとすれば、今のところ、デング熱を持った蚊(ヒトスジシマカ)が棲息しているのは、代々木公園のみということになり、全国にすぐにデング熱が拡大してゆく危険性は、それほど高くない。
 しかし、楽観は許されない。代々木公園で、デング熱ウイルスに感染した人は、全国各地に散らばっている。その中には、まだ発症していない人や、感染しても発症しない人も含まれているだろう。そういう人たちが各地で、ヒトスジシマカに刺された場合には、そこでまた、デング熱の感染が広がる可能性が否定できない。ちなみに、ヒトスジシマカというのは、別に珍しい蚊ではなく、全国どこにでもいる、俗にいう「藪っ蚊」のことらしい。
 また、昨日のコラムでは、石井信太郎ほかの「長崎市のデング熱流行に就て」(一九四二)という論文に言及した。本日は、この論文を少し紹介してみたい。
 同論文は、東京帝国大学南方科学研究会医学部が発行した『南方医薬研資料第一号』(一九四二年一二月)に掲載されているもので、執筆者は、石井信太郎(東京帝国大学助教授)を筆頭に、鴨脚光増、福田雅夫、矢島嘉清、三苫靖子の計五氏。鴨脚氏以下の肩書は不詳。
 この論文は、長崎でデング熱の流行があった一九四二年(昭和一七)の年末に発表されている。つまり、石井らの執筆者は、その年に長崎に赴いて調査研究をおこない、その年のうちに、その結果をまとめ、公表したというわけである。
 この論文の末尾の部分を引用しておこう。

(3)蚊の発生と本病発生との関係――長崎市のデング熱患者発生は7月中旬からと想像されてゐるが本病なる診断が確実にされたのは8月20日後であつて以前の状況は確実性が極めて弱度であつて8月以降に発生したものに就て論するのがよいと思はれるのである。
患者発生状況と蚊の発生状況とを比較観察してみると、患者発生数は蚊の発生数と略〔ホボ〕一致するものであると謂へる。
 殊にA.albopictus〔ヒトスジシマカ〕とデング熱発生との関係は極めて密接なものがあり、大体一致した曲線を示すものである。
 而して潜伏期が比較的短いやうであるので尚更〈ナオサラ〉曲線が一致する傾向があるものと思はれる。
 更に東京に於けるA.albopictusの発生状況から考へると9月の候にデング熱が流行する可能性があるので将来の問題として本病予防の見地から8月9月に於ける蚊の撲滅を厳重に施行することが肝要であると思ふ。
 結 論
(1)長崎市に於ける今次のデング熱流行は定型的のものである。諸種の症候に於て考察するに決して南方のものと比較して経度のものとか変型であるとか謂ふことは出来ない。
(2)長崎市に於けるデング熱は市内の数ケ町を中心として発生し漸次〈ゼンジ〉周辺の町内に拡大し、其発生状況は9月に最盛期を示した。そして10月、11月と漸次減退しつゝも尚新患者の発生を見てゐる。
(3)蚊の分布状況はAedes albopictusが極めて多数に9月を最盛期として認められたが、之は患者発生状況と一致するものである。

 これを読んでいただければ、この論文が、今日なお参照するに足る有益な文献であることを理解していただけるであろう。
 この論文は、拙編『病いと癒しの民俗学』(批評社、二〇〇六)に復刻されているので、参照いただきたい。なお、私がこの論文の存在を知ったのは、吉岡郁夫博士から、そのコピーをいただいたからであったことを付記する。

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