◎誰が呼んだか、鞍馬天狗とゆう人よ
数日前、またまた、映画『鞍馬天狗 角兵衛獅子』を鑑賞した。一九五一年(昭和二六)、松竹京都制作、大佛次郎原作、八尋不二脚本、大曾根辰夫監督。
やはり、何度見ても面白い。これを「傑作」と呼んだ映画通は、あまりいなかったと思うが、私にとっては、紛れもなく傑作である。
冒頭は、川田晴久の口上。
春風駘蕩〈シュンプウタイトウ〉春たけて、東山三十六峰〈ポウ〉静かに眠り、賀茂の河原に千鳥鳴く、その静寂を破って、突如として起こる剣戟〈ケンゲキ〉の響き
講談調というのか、弁士風というのか、川田晴久のカン高い声が、いきなり緊張感を醸し出す。
続いて、橋の上で、多数の武士が斬り合う場面。あえて、無声映画のような雰囲気を出そうとしている印象。
この場面の最後にかぶさって、川田晴久のギター。
場面変わって、「ちゃっかり飴」の飴屋に扮した川田が、京の街なかで、太鼓で拍子を取りながら歌う。
メロディは、何と「地球の上に朝が来る」。言うまでもなく、川田晴久のオハコである(六〇代半ば以上でなければ、通じないか)。
一部、歌詞が聞き取れないが、だいたい、次のように歌っている。
月は朧〈オボロ〉に東山
賀茂の流れに紅が散ります○○○もと
ここは名代の京の街
新撰組の浪士らが
我が世の春を歌いつつ
傲慢無礼に肩で風切る人を斬る
さはさりながら皆さまよ
京の童〈ワラベ〉の手毬唄
菊は二度咲く葵は枯れる
西にゃ轡〈クツワ〉の音がする
飴屋の唄にも唄われた
今日も噂の目と口に
言わず語らず待っている
その正体は知らねども
誰が付けたか呼んだのか
鞍馬天狗とゆう人よ
それにしても、この映画の川田晴久はいい。歌も演技もうまい。表情もいい。主演の嵐寛寿郎〈アラシ・カンジュウロウ〉を喰っている。
杉作役の美空ひばりも悪くないが、やはり、川田晴久には遠く及ばない。