礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日本は最悪の事態に直面すべし(東郷外相)

2016-04-28 03:15:08 | コラムと名言

◎日本は最悪の事態に直面すべし(東郷外相)

 この間、中村正吾秘書官、および黒木勇治伍長の「日誌」によって、七一年前(一九四五年)の「今ごろ」の出来事を紹介している。出典は、それぞれ、中村正吾著『永田町一番地』(ニュース社、一九四六)、および黒木雄司著『原爆投下は予告されていた』(光人社、一九九二)である。
 本日は、『永田町一番地』から、四月二八日、二九日の日誌を紹介する(二〇〇~二〇二ページ)。なお、『永田町一番地』では、四月九日のあと、四月二八日まで、日誌が飛んでいたが、この理由は不明である。

 四月二十八日
 赤軍のベルリン総攻撃が開始されて旬日を出ない今日、突如、サンフランシスコからの放送は、ロイター、ニューヨーク・タイムス、エー・ピーが、それぞれ確かなる筋の情報として、ドイツが米英二国に対し無条件降伏を申し入れたことを伝へた。ついでトルーマン大統領は、ドイツからの申し出を受けたことはない、単にかかる報告を受けたのみである。この報告については直ちにリー参謀総長と協議を遂げ、アイゼンハウアー最高司令官とは長距離電話で打ち合せをした、と声明した。また、チャーチル英首相はその特別声明で、米英ソ三国に対する無条件降伏のみを受諾するであらう、と述べた。
 米英ソの挟撃を受けて、ドイツはつひに崩壊の寸前にある。
【一行アキ】
 東郷〔茂徳〕外相は、最近、外務省々員に対し、新大臣としての訓辞を行つた。その訓辞の要点は、われわれは日本が最悪の事態に直面すべきことを予期しなければならない。この事態に対し最善を尽さねばならぬのはもとよりのことで、自分も外相として全力を傾倒する積りである。思ふに日本が遭遇せる国際情勢は凡てが手遅れとなり、全面的に行き詰つてゐる。これが建設には基礎工事から始めなくてはならない状態である。従つてわれわれとしてもこの際、積極的に活動しなくてはならないもであるから、諸君の一致協力を求める、との意味であつた。

 四月二十九日
 スエーデン国外務省は、同国のヴェルドナドッテ伯がドイツのヒムラ―内相の伝言を米英両国代表に伝達した旨正式発表した。ドイツのイタリー派遣軍は続々投降を開始した。五ケ年半に亘る敢闘にもかかはらずドイツの命運は既に決した。
 ヒトラーの最後の抵抗、全ドイツにおけるゲリラ戦の展開などになほ一縷の望みを矚する〔嘱する〕向〈ムキ〉がないではない。然し、それは単なる気安めである。ドイツに対する仮藉〔仮借〕なき猛攻撃は軍事的なドイツの徹底的敗北を齎し〈モタラシ〉つつある。無条件降伏がヒムラー内相の手で行はれようが、ヒトラー自身の手で仮りに行はれようと、それは今日では問題にならない。欧州戦の終末が冷酷な姿で日本国民の眼前に晒け〈サラケ〉出されようとしてゐる。

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