◎すべての請求権を完全かつ最終的に打ち切る
一又正雄「阿波丸事件の解決について」(『判例時報』第二一巻第八号、一九四九年八月)を紹介している。本日は、その三回目。
三 阿波丸事件解決のための日米協定
そこで、政府当局は、この国会の決議にもとづいて、総司令部を通じて米国政府と折衝を開始した結果、日米両国政府からそれぞれ正当な委任を受けた日本側吉田〔茂〕外務大臣、米国側ウィリアム・ジュー・シーボルト日本関係米国政治顧問は、〔一九四九年〕四月十四日、東京で「阿波丸請求権の処理のための日本国政府及び米国政府間の協定」(Agreement between the Government of the United States of America and the Japanese Government for Settlement of the Awa Maru claim)に署名したが、この協定は、前文で、前述のような合意に拘わらず生じた本件につき米国政府は「責任を認め、且つ、敵対行動の終止後損害賠使の問題を考慮する用意のあることを、日本政府に対して保証した」こと、両国政府は「この誧求権の公正な且つ双方にとって満足な解決に到達するため努力した」こと、マッックアーサー元帥が意見の一致を容易にするため両国政府の間の仲介者として斡旋の労をとったことを述べた後本文は次のように規定している。
一、日本国政府はダグラス・マックアーサー元帥の下に日本占領が開始されて以来進展した公正な事態を考慮し、且つ、降伏後の期間において米国政府から受けた物質及び役務(goods and service)による直接及び間接の援助を多として、阿波丸の撃沈から生じた米国政府又は米国民に対するいかなる種類の請求権をも、日本国政府自身及び一切の関係日本国民のために、すべて放棄する。(第一条)
一、第一条の規定は、同条に掲げられた種類のすべての請求権を、完全且つ最終的に、打切るものであって、これらの請求権は、何人が利害関係者であっても、今後消滅するものとする。(第二条)
一、日本国政府は、この事件の特殊性にかんがみ、この災難で死亡した者の家族及び前記の船舶の所有者に対し、見舞金の支給による適当な待遇を与えるため努力するものとする。(第三条)
一、米国政府は、阿波丸の撃沈につき深甚な遺憾の意を表し、且つ、この災難で死亡した者の家族に対し同情を表する。(第四条)
一、この協定は署名の日から効力を生ずる。(第五条)
なお右協定には一つの了解事項が付せられ、占領費並びに日本国降伏のときから米国政府によって日本国に供与された借款及び信用は、日本国が米国政府に対して負っている有効な債務であり、これらの債務は、米国政府の決定によってのみ、これを減額し得るものであると了解される」ことが確認された。
かくて前記国会の決議に基づいて、四月二十六日、吉田首相は両院において、日米協定の成立を報告説明した。【以下、次回】
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