礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

明確な目標なき新体制論議は国民を困惑させる

2018-01-24 04:38:01 | コラムと名言

◎明確な目標なき新体制論議は国民を困惑させる

 昨日の続きである。榊山潤著『石原莞爾』(湊書房、一九五二)から、石原莞爾が、一九四一年(昭和一六)三月に、待命となった際の「挨拶文」を紹介している。本日は、その二回目。

三、国防力の積極的建設
蘇連〈ソレン〉の極東に使用し得る兵力に対抗し得る兵力を保有し且其の在極東兵力に劣らざる兵力を北満に配置することが陸軍軍備の根本方針たるべきことは申す迄もありませぬ。
然るに蘇連の全体主義的極東兵力に対し日本の自由主義的建設は彼我〈ヒガ〉の極東兵備に甚しい差を生じました。断乎として一日も速かに此差をなくすることが国家の最重要急務であります。国防国家建設の基礎は此明確な決意にあります。蘇連の生産力は十数年前迄は遥かに日本の下位にありました。我国が蘇連の増強に追及し得ない等と考ふるものあるならばそれは日本を侮蔑し、且時代を認識しないものであります。昭和十一年〔一九三六〕の生産力拡充計画を強行して居たならば(今次事変の為全面的実現は勿論不可能であるが)昭和十六年〔一九四一〕は例へば鋼は千万乃至千二百万噸〈トン〉を生産し得る訳であつたのです。さうなれば東亜の形勢は丸で変つて居たと思ひます。
国防上絶対必要とする尨大なる生産力の一歩も退かぬ断乎たる要求が昭和維新の原動力であり新体制は自然に生れて参ります。明確なる目標なく新体制の機構論議は徒に〈イタズラニ〉国民を困惑せしむるのみです。
資源は勿論必要です。然し今日の文明は科学と生産能力を更に重要ならしめました。如何に資源を獲得しても今日の様な生産力では近く恐るべき苦境に立つことを覚悟せねばなりませぬ。
蘇連は中立のよき立場を利用して其の計画の進展に全力を注いで居ります。
自由主義時代特に我〈ワガ〉機械工業未発達の時は兵器工業を軍の直営とする必要がありました。然し今日は時代が変化しつつあります。国防上の要求は明確ならしめねばなりませぬが其の建設は 国家各担任機関の全責任によりて遂行せらねばなりません。それが国防国家の姿であります。兵器の製作は国家の全工業力の綜合的運用に俟つべく一日も速かに天才的人物を戴く軍需工業省の創設を熱望致します。軍が自ら兵器を製造するのは国防国家の本則に合せず〈ガッセズ〉生産能力の飛躍的増進は困難と考へられます。
北満兵備の充実のためには北満振興の必要は申す迄もありません。然し軍自体として更に積極的研究をすすめ、速かに蘇連以上の兵力を北満に移し得るに至らねばなりませぬ。簡易にして而も実用的なる兵営の軍隊の労力による建築、兵力による食糧の生産等あらゆる点に新機軸を必要とします。軍人は卒先無住の地に移り義勇軍や開拓民の中核となつて故東宮大佐の所謂「第二の高千穂」を北満の地に建設すべく全熱情を傾注すべきであります。昭和軍人の使命も安心も此処〈ココ〉にあらねばなりませぬ。「軍人は質素を旨とすべし」との聖諭今日の如く軍人の生活に切実なる日は未だ嘗てありませんでした。【以下、次回】

 引用の最後のほうに、「故東宮大佐」とあるのは、「満蒙開拓移民の父」と呼ばれた東宮鉄男〈トウミヤ・カネオ〉陸軍大佐のことである(一八九二~一九三七)。

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