◎ゴーン被告の国外脱出と映画『パピヨン』
一七日に配信されたYAHOO!ニュースで、「ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説」という記事を読んだ。もとになっているのは、一六日に放送されたニッポン放送の番組『ザ・フォーカス』だという。以下、引用。
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月16日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。ゴーン被告逃亡の理由と手段について解説した。
ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説
日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告が海外逃亡した事件に絡んで、ゴーン被告の弁護団のうち弘中淳一郎弁護士と高野隆弁護士が弁護人を辞任したことが16日わかった。弘中弁護士は「東京地裁に対し、カルロス・ゴーン氏のすべての事件について、弁護士法人法律事務所ヒロナカに所属する弁護士全員の辞任届を提出した。本件に関し、記者会見は行わない」とするコメントを出している。
森田耕次解説委員) ゴーン被告の公判前整理手続きが16日に東京地裁で開かれ、東京地裁はゴーン被告と金融商品取引法違反の罪で同じく起訴された元代表取締役、グレゴリー・ケリー被告や法人との日産との裁判を分離する決定をしました。ゴーン被告が日本に戻る見通しがないということで、裁判は切り離すということです。一方で、ゴーン被告の弁護団のうち、弘中淳一郎弁護士や高野隆弁護士らが地裁に弁護人の辞任届を出しました。主任の河津博史弁護士ら3人は引き続き弁護士を務めるということです。地裁はグレゴリー・ケリー被告らの初公判については4月に開く方向で調整しているということです。ケリー被告は無罪を主張して、日産関係者らが証人として多数出廷する裁判になると見られています。ケリー被告はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じておりまして、ゴーン被告の逃亡を受けて「主要な証人がいなくなり、公正な裁判を受けられるかわからない」と心境を語ったということで、ゴーン被告逃亡で自分の裁判に悪い影響が出るのではないかと心配しているようです。
佐藤) ゴーンさんからすれば、逃げるのは当然です。逃げるのがいいと言っているのではありません。今回、もし金融商品取引法違反だけだったら、彼は罰金刑かどんなに重くても執行猶予なのです。そしたらまた普通に生活できるわけですよね。ところが、背任が2つも付いています。会社法の背任は特別背任だから、最高刑は10年です。10年のものが2つ付くとどうなるかというと、最高刑が15年になるのです。そして、4つで起訴するということは、絶対に実刑にするという強い意志があるのです。これは、私の相場観だと12年を求刑すると思うのです。あまり裁判官は言いたがらないのですが、裁判所には不文律があって、「出世するためには検察官コースを受けないこと」というものがあるのですよ。だいたい求刑の7割以下になると、検察官は控訴してくるのですね。そうしたら、懲役がだいたい見えてくるのです。8年です。ゴーンさんの裁判は5年かかると言っていまして、私も特捜事件を経験しているからよくわかるのですが、この裁判は10年かかると思います。
森田) 裁判に10年。
佐藤) その後8年ですから、ゴーンさんはいま65歳でしょう。刑務所から出てくるときには83歳なのです。刑務所の医療環境はものすごくいいとは言えないですから、たぶん獄中死するのですよ。それと、日本から密出国した場合、刑期は1年しか増えないのです。これは、商売人の感覚からしたら、大変お買い得と言っていいでしょう。獄中死か、もしバレたとしても1年。しかも、15億円の保釈金を没収になります。逃げるために新聞報道だと22億円というので、37億円。しかし、ゴーンさんが手記を書いたら印税がいくらくるでしょうか。それから、映画化したら。
森田) 映画化の話も言われていますよね。
佐藤) 昔あった『パピヨン』並みですよ。そうすると、恐らく数100億円は儲かります。ビジネスにもなるし、自由の身も確保できるし。やるに決まっています。【以下、略】
ゴーン被告は、「獄中死」を意識したのだろうという佐藤優氏の指摘に、説得力を感じた。ここで、佐藤氏は、映画『パピヨン』を引き合いに出している。一九七三年のアメリカ・フランス合作映画である。無実の殺人罪で終身刑になった主人公が、脱獄を試みるといういわゆる「脱獄物」である。この映画は、アンリ・シャリエールの自伝小説をもとにしているという。絶海の孤島での絶望的な獄中生活が、シャリエールに「脱獄」を決意させたのである。「冤罪」、「絶望」、「実話の映画化」というキーワードを並べてみると、佐藤氏が今回の事件で、映画『パピヨン』を連想したことは、よく理解できる。しかし、シャリエールに終身刑を宣告したのは、その祖国フランスである。「異国の司法制度」、「絶望」、「実話の映画化」というふうにキーワードを並べた場合には、映画『ミッドナイト・エクスプレス』が連想されるのである。なお、ゴーン被告が問われた罪が、「冤罪」かどうかについては、いま判断を保留する。