◎1985年までに公刊された「国語学史」
根来司著『時枝誠記 言語過程説』(明治書院、一九八五)の紹介に戻る。
本日、紹介するのは、同書の「Ⅱ」の第九「国語学史」である。
かなり長い文章なので、何回かに分けて紹介してゆく。途中、ブログに再現しにくい部分などを割愛することがある。そのことを、あらかじめお断りしておく。
一
ここで時枝誠記博士の国語学史研究について述べようと思うが、最初に明治元年〔一八六八〕から昭和六十年〔一九八五〕までにわが国で刊行された国語学史がどのくらいあるかを見たいと思う。それにつけて思い起こすのは、福井久蔵〈キュウゾウ〉博士の門に出入りして亀井孝氏と共に『国語学大系手爾波一二』(昭和十三年、十九年)の編輯翻刻にあたられた井上誠之助〈セイノスケ〉氏の、「福井久蔵博士と国語学史」(神戸大学「国文論叢」第五号、昭和三十一年十一月)という論文である。というのはこの論文には井上氏が福井博士の国語学史のそれを考えるにあたり、明治のはじめから昭和の三十年〔一九五五〕までに成った、しかもまとまった一冊の書として公にされた国語学史をあげておられるからである。私はそれにそのあと三十年の間に公刊された国語学史をさらに補って次に掲げてみようと思う。
国語学小史 保科孝一 明治三十二年〔一八九九〕
国語学研究史 花岡安見 明治三十五年〔一九〇二〕
日本文法史 福井久蔵 明治四十年〔一九〇七〕
国語学史 保科孝一 明治四十年
日本語学史上下(博文館「帝国百科全書」) 長 連恒 明治四十一年〔一九〇八〕
文検受験 国語学史要 橘 文七 大正十五年〔一九二六〕
近世国語学史 伊藤慎吾 昭和三年〔一九二八〕
概観要説 国語学史の研究 鬼沢福次郎 昭和四年〔一九二九〕
国語学史(平凡社「国文学講座」) 吉沢義則 昭和五年〔一九三〇〕
国語学史概説(平凡社「続国文学講座」) 吉沢義則 昭和五年
国語学史(岩波講座「日本文学」) 時枝誠記 昭和七年〔一九三二〕
国語学史要 田中健三 昭和八年〔一九三三〕
増訂 日本文法史 福井久蔵 昭和九年〔一九三四〕
国語学史(雄山閣「国語国文学講座」) 吉沢義則 昭和九年
新体国語学史 保科孝一 昭和九年
国語学史(明治書院「国語科学講座」) 重松信弘 昭和九年
国語学史講義 松尾捨治郎 昭和十年〔一九三五〕
国語学史要(「岩波全書」) 山田孝雄 昭和十年
国語学史 小島好治 昭和十四年〔一九三九〕
国語学史概説 重松信弘 昭和十四年
国語学史 時枝誠記 昭和十五年〔一九四〇〕
国語学史 福井久蔵 昭和十七年〔一九四二〕
国語学史 山田孝雄 昭和十八年〔一九四三〕
刪修 国語学史概説 重松信弘 昭和十八年
新修国語学史 東条 操 昭和二十三年〔一九四八〕
国語学史綱要 重松信弘 昭和二十四年〔一九四九〕
国語学史現代篇 小島好治 昭和三十年〔一九五五〕
国語学史網要改稿版 重松信弘 昭和三十二年〔一九五七〕
国語学史 田辺正男 昭和三十四年〔一九五九〕
国語国文学研究史大成国語学 佐伯梅友他 昭和三十六年〔一九六一〕
国語意識史の研究 永山 勇 昭和三十八年〔一九六三〕
国語学史 三木幸信、福永静哉 昭和四十七年〔一九七二〕
国語学史 古田東朔、築島 裕 昭和四十七年
国語学史概説 此島正年 昭和五十一年〔一九七六〕
国語学史・国語特質論 橋本進吉博士著作集 昭和五十八年〔一九八三〕
上田万年国語学史 新村 出筆録、古田東朔校訂 昭和五十九年〔一九八四〕
この中には一冊の本ではあるが、国語学史の一部に関するもの、たとえば木枝増一〈キエダ・マスイチ〉氏の『仮名遣研究史』(昭和八年)、山田孝雄〈ヨシオ〉博士の『五十音図の歴史』(昭和十三年)、江湖山恒明〈エゴヤマ・ツネアキ〉氏の『上代特殊仮名遣研究史』(昭和五十三年)、そして私〔根来司〕の『てにをは研究史』(昭和五十五年)などは入れていない。【以下、次回】