◎日本語はどうしてできあがったか
山中襄太『国語語源辞典』(校倉書房、1976)から、「序論」を紹介している。本日は、その八回目(最後)。第28項から第33項までは割愛し、第34項から第37項までを紹介する。
28.sk-,sc-,sch-,sh- 【略】 〈26ページ〉
29.gn-,kn-,sn- 【略】 〈26ページ〉
30.wr-(war-,wer-,wor-) 【略】 〈26~27ページ〉
31.親族関係語彙の統一的語源説明 【略】 〈27~28ページ〉
32.man-(手) 【略】 〈28~29ページ〉
33.ニタ,ノタ,ヌタ,ムタ,mud 【略】 〈29ページ〉
34.類似の味示するもの――missing link
こういう態度とともに,東西文化の類似が,単に言語の面だけにとどまらず,神話,伝説,民俗などの,あらゆる面で豊富に見出されることは,そもそも何を暗示するものなのか。何がその間に伏在,潜在しているのか。その間に深く広く潜在しているであろうところの,いわゆるmissing linkをひとつでもふたつでも発掘,発見したいと,はかない努力をつづけているのである。
前述したように,ギリシャ,ローマや,バビロニア,アッシリア,ヘプライ,エジプト や,遠く北欧の神話,伝説と,日本の記・紀の神話伝説とが,あれほどにまで類似すると いうことは,そもそも何を暗示し示唆するものなのか。
ごく新しいことではあるが(人類の長い歴史からいえば),絹の道,玉の道,香料の道,宝貝の道,等々の道が東西に通じていた。奈良の正倉院の御物は何を物語るか。法隆寺などの寺院建築の柱の胴張と,ギリシャ建築のentasisとは,何を示すか。北欧神話のYggdrasilと古事紀の「百枝槻〈モモエツキ〉」とは,また北欧三神Thor, Jingo, Odinと,日本の豊浦,神功,応神の三帝とは偶然の類似なのか,その間に何物かが伏在するのか。
こういう類似を最初に唱えた先覚者は,木村鷹太郎氏であろう。氏の説くところは,部分的にはおかしいと思われる点も多いが,とにかく東西文化の類似を唱えた先覚者としての功績は,正当に評価されるべきであろう。バビロニア,アッシリア,へブライ,スメルなどと東洋ないし日本との文化の類似を説く人びとが,その後あいついででたが,それらの人びとは,木村氏によって開眼されたものと思われる。
35.日本人はどこからきたか
こういう文化一般そのものもさることながら,その文化のにない手としての日本人自体の出自が,まったくわからないのである。ごく古い何万年何千年の昔から,長い年代にかけて,北から西から南から,あらゆる方面からこの列島に,漂着ないし移動してきた人びとの融合混血したものが日本人ということか。体質人類学や,文化人類学や,民族学の面からの研究もあるようだが,文化の面からだけみても,北はアイヌ,エスキモー,ギリヤーク,ツングース,朝鮮,満州,モーコ,トルコ方面,西は中国,西アジアからヨーロッパにかけて,南は東南アジアから南洋一帯にかけての類似は,多くの人びとによって,いろいろとあげられている。
36.日本語はどうしてできあがったか
日本語の語系もまだ決定的に明らかにされたとはいえないようだが,語彙の面では南方的要素が圧倒的に大部分を占めてはいるものの,syntaxやgrammarの面では明らかにアルタイ的である。すなわち南方的下層substratumの上に,北方的上層superstratumがおおいかぶさったところの二層構造を持つということはたしからしい。したがって語源の面でも,そういうことを頭において,「視野」をなるべく広くし,「射程」をなるべく遠く伸ばして考えることが,何よりも大切であると思われる。
37.お願い
はじめにおことわりしたように,序論らしくもない前口上,長くなったが,わたしが語源を考える考え方,説明のしかたの基本的な心持ちを,ご諒解ねがえればありがたい。終りにひとつお願いをのべたい。それはアカデミックな学者も,民間の研究者も,たがいに協力して,教えたり教えられたりして,10年,20年,50年,100年の問に,徐々に,段階的に,国語語源辞典が一歩一歩完成に近づいてゆくように,努力を積み重ねていただきたいということである。〈29~30ページ〉
山中襄太『国語語源辞典』(校倉書房、1976)から、「序論」を紹介している。本日は、その八回目(最後)。第28項から第33項までは割愛し、第34項から第37項までを紹介する。
28.sk-,sc-,sch-,sh- 【略】 〈26ページ〉
29.gn-,kn-,sn- 【略】 〈26ページ〉
30.wr-(war-,wer-,wor-) 【略】 〈26~27ページ〉
31.親族関係語彙の統一的語源説明 【略】 〈27~28ページ〉
32.man-(手) 【略】 〈28~29ページ〉
33.ニタ,ノタ,ヌタ,ムタ,mud 【略】 〈29ページ〉
34.類似の味示するもの――missing link
こういう態度とともに,東西文化の類似が,単に言語の面だけにとどまらず,神話,伝説,民俗などの,あらゆる面で豊富に見出されることは,そもそも何を暗示するものなのか。何がその間に伏在,潜在しているのか。その間に深く広く潜在しているであろうところの,いわゆるmissing linkをひとつでもふたつでも発掘,発見したいと,はかない努力をつづけているのである。
前述したように,ギリシャ,ローマや,バビロニア,アッシリア,ヘプライ,エジプト や,遠く北欧の神話,伝説と,日本の記・紀の神話伝説とが,あれほどにまで類似すると いうことは,そもそも何を暗示し示唆するものなのか。
ごく新しいことではあるが(人類の長い歴史からいえば),絹の道,玉の道,香料の道,宝貝の道,等々の道が東西に通じていた。奈良の正倉院の御物は何を物語るか。法隆寺などの寺院建築の柱の胴張と,ギリシャ建築のentasisとは,何を示すか。北欧神話のYggdrasilと古事紀の「百枝槻〈モモエツキ〉」とは,また北欧三神Thor, Jingo, Odinと,日本の豊浦,神功,応神の三帝とは偶然の類似なのか,その間に何物かが伏在するのか。
こういう類似を最初に唱えた先覚者は,木村鷹太郎氏であろう。氏の説くところは,部分的にはおかしいと思われる点も多いが,とにかく東西文化の類似を唱えた先覚者としての功績は,正当に評価されるべきであろう。バビロニア,アッシリア,へブライ,スメルなどと東洋ないし日本との文化の類似を説く人びとが,その後あいついででたが,それらの人びとは,木村氏によって開眼されたものと思われる。
35.日本人はどこからきたか
こういう文化一般そのものもさることながら,その文化のにない手としての日本人自体の出自が,まったくわからないのである。ごく古い何万年何千年の昔から,長い年代にかけて,北から西から南から,あらゆる方面からこの列島に,漂着ないし移動してきた人びとの融合混血したものが日本人ということか。体質人類学や,文化人類学や,民族学の面からの研究もあるようだが,文化の面からだけみても,北はアイヌ,エスキモー,ギリヤーク,ツングース,朝鮮,満州,モーコ,トルコ方面,西は中国,西アジアからヨーロッパにかけて,南は東南アジアから南洋一帯にかけての類似は,多くの人びとによって,いろいろとあげられている。
36.日本語はどうしてできあがったか
日本語の語系もまだ決定的に明らかにされたとはいえないようだが,語彙の面では南方的要素が圧倒的に大部分を占めてはいるものの,syntaxやgrammarの面では明らかにアルタイ的である。すなわち南方的下層substratumの上に,北方的上層superstratumがおおいかぶさったところの二層構造を持つということはたしからしい。したがって語源の面でも,そういうことを頭において,「視野」をなるべく広くし,「射程」をなるべく遠く伸ばして考えることが,何よりも大切であると思われる。
37.お願い
はじめにおことわりしたように,序論らしくもない前口上,長くなったが,わたしが語源を考える考え方,説明のしかたの基本的な心持ちを,ご諒解ねがえればありがたい。終りにひとつお願いをのべたい。それはアカデミックな学者も,民間の研究者も,たがいに協力して,教えたり教えられたりして,10年,20年,50年,100年の問に,徐々に,段階的に,国語語源辞典が一歩一歩完成に近づいてゆくように,努力を積み重ねていただきたいということである。〈29~30ページ〉
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