礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日本人の集団志向が「生まれつき」のはずはない

2024-11-26 03:35:02 | コラムと名言
◎日本人の集団志向が「生まれつき」のはずはない

 カレル・ヴァン・ウォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社、1994)の要所要所を紹介している。本日はその二回目。
 第一部「よい人生を阻むもの」第二章「巨大な生産マシーン」から、その一部を引いてみよう。

 日本の驚くべき経済的発展に関して、これまでに何ダースもの説明が与えられてきたが、それらは、私が記したような階層秩序的【ハイアラーキカル】な管理の実態を、人々の目から覆い隠してきた。それらの説明は、たいてい、日本社会の深層に植えつけられているとされる「文化的伝統」の要因を強調する。たとえば、「日本人はもともと働くのが好き」だとか「生まれつき〝集団生活〟を好む」だとか「俟約の伝統にしたがって貯蓄にはげむ」といった説だ。
 なかでも、日本人は生まれつき何でも集団でしたがるという説は、偽りのリアリティを支持する人々がとくに好んできた議論だ。表面的にはいかにも本当らしく見える。そして、もちろん、日本の若者も成長の過程で、集団の権威を受け入れていくよう条件づけられる。しかし、だからといって、日本人は「生まれつき」集団志向だとは私は全然思わない。私は、長年の日本の人の観察から、そう断言できる。
 私に言わせれば、会社に入ったとたんに日本の人たちが体験させられることが、日本人が生まれつき集団志向人間ではない証拠である。日本の企業は、ずっと以前から、社員を参加させる実にさまざまな儀式を発明してきた。この種の象徴的行事のことは、あなたもとっくにご承知だろう。これらの儀式は、社員たちに、彼ないし彼女たちの犠牲は価値ある目的に捧げられるのだと納得させる意味がある。あなたも、多分、新入社員のころに、外国なら軍隊の新兵訓練でしか体験できないような訓練を受けているはずだ。
 新入社員は、ときに、道路をほうきで掃かされたり、冷たい川に漬からされたり、整列して登山させられたり、その他いろいろ、とにかく自尊心を傷つけ、ヘトヘトになるようなことまでさせられる。これらの、厳しい集団訓練やお互いでする告白ごっこなどの訓練は――文化人類学者が見たら喜んでこれぞ清め【ピユアリフイケーシヨン】と通過儀礼【イニシエーシヨン】の実例だと教えてくれるだろうが――重要な目的のためにおこなわれている。軍隊の新兵訓練と同様、個人の意志を吹っ飛ばすのに役立つのだ。
 さて、もし日本人が生まれつきの集団志向人間だという話が本当なら、どうしてまたわざわざこうした訓練が必要だろうか。必要ないはずではないか。〈59~60ページ〉

*このブログの人気記事 2024・11・26(8・10位に極めて珍しいものが入っています)
  • ウォルフレン氏の30年前の予言
  • 龕(がん)は、山腹に凹処に仏像を安置したもの
  • 仏教経典には、古貝といふ字が屡〻出てゐる
  • 一旅は五百人、五旅が一師
  • 薩は、もとは薛土と書いた
  • 鉢は、梵語パトラー(Patra)の音写
  • 佛、魔、塔などは、新たに作った文字
  • 日華事変は拡大の一途をたどった
  • 礫川ブログへのアクセス・歴代ワースト40(24...
  • 荒木貞夫と「昭和維新」



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする