礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

代物のシロは、へブル語のシロルから(川守田英二)

2024-11-05 00:02:04 | コラムと名言
◎代物のシロは、へブル語のシロルから(川守田英二)

 山中襄太『国語語源辞典』(校倉書房、1976)の紹介を続ける。本日は、「しろ【代】」という項目を紹介してみたい。

しろ【代】 シロ(代)の語源――大言海は,材料,代用品,代金の意味の代(シロ)は,標(シルシ)がシリ,シロと転じたものかといい,田地の意味の代(シロ)は,敷広(ヒキヒロ)の意だという。この後者の代(シロ)について金田一京助氏は,「言語生活五十年」(P.35)で,田代,苗代〈ナワシロ〉のシロ,芋畑(イモジリ),大根畑(ダイコンジリ),塩尻のシリ,山城,岩代のシロの意味を,この古語の代シロ)で解くべきかという考えを出して,山城をアイヌ語のヤム・シリ(栗・地)で無理に解かなくても,このような古語や方言の研究から,まだまだわれわれの気づかなかった語彙が発見されるという。安田徳太郎氏はいう――今日のモン語では米はsroだが,クメール語では稲の苗がsrūwとなっていて,二つながらサンタリ語のホロのロにつながっている。モン語のsroが稲といっしょに紀元前に日本に持ちこまれて,このsroが苗代のシロ(代)や白いのシロになった。同系のスティエン語のsöreiは水田,クメール語のsreiは「米をつく」とか「米 をシラぐ」という意味になっているから,云々と(「人間の歴史」3,p.154)。代物(シロモノ)のシロについて,川守田英二氏はいう――へブル語SLL(シロル:分捕品,利得)が代物(シロもの)や礼代(いやシロ)のシロで,「礼代」とは「エホバに捧げた供物〈クモツ〉」,「代物」とは「貢物〈コウモツ〉」の意だと(「日本へブル語根」P.83)。 [考] 代(シロ)と白が同源とは,うなずきがたい感がある。代用品の意のシロに似た語がアイヌ語にあるのは,貸借関係の語か―― shiri (in stead of) ,ona-shiri(父の-カワリに),shirihi-ki(カワッテ-する),thiri-hineye-guru(カワッテ-物言う-人。弁護人)など。

 文中に、「日本へブル語根」とあるのは、川守田英二著『日本言語考古学――ヘブル語根の日本語』(友愛書房、1959)を指す。川守田英二(かわもりた・えいじ、1891~1960)は、アメリカ在住の長老教会牧師。ヘブライ語の研究者として知られる。主著は『日本ヘブル詩歌の研究』(友愛書房、1956)。

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