礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

山中襄太『国語語源辞典』の序論を読む

2024-11-07 00:06:29 | コラムと名言
◎山中襄太『国語語源辞典』の序論を読む

 本日からしばらく、山中襄太『国語語源辞典』(校倉書房、1976)の「序論」を紹介してゆきたい。この「序論」は、全37項からなり、28ページもあるが、紹介するのは、その三分の一ほどになろう。
 本日は、第1項から第4項までを紹介する。

          序  論

1.「語源参考資料・私考集」
 序論というほどの大げさなものではないが,まず前口上とでもいったようなご挨拶を述べさせていただきたい。まことにおこがましくも,「国語語源辞典」などというだいそれた書名で拙著を出版することについて,お断りを申しあげたい。というのは,名は「語源辞典」とはなっているけれども,それは便宜上のことであって,実は「語源参考資料と私考集」とでもいったようなものに過ぎないということである。これを以て人に教えようなどというようなものでは決してなくて,これによって人からいろいろ教えていただこうというためのものなのである。
2.語源研究のレベルの低さ
 日本語の語源は,ほとんどわかっていない。わからぬものばかりといってもいいくらいである。だからこそ,これまで国語辞典は語源には触れ得なかったのである。大槻文彦博士の言海や大言海だけは,博士の畢生〈シッセイ〉の大努力によって語源説明を加えられたけれども,それもある限られた語についてだけであり,且つまた,その説明もうなずきがたいものがかなりある。これは博士の力の不足というよりも,日本の語源研究全体のレベルの低いことのあらわれというべきものであろう。
3.未開拓の処女地
 日本語の語源研究ははなはだ幼稚で,ほとんど何もわかっていないといってもいいくらいである。ほとんど手が着けられていないのである。いわば,千古斧鉞〈フエツ〉の入らない「原始林」,開拓の鍬が一度も打ち込まれたことのない「処女地」なのである。深い濃い霧につつまれた「暗黒世界」である。こんな「五里霧中,暗中模索」の状態にある日本語の,語源辞典が書けるはずがない。だからこそ,これまで日本には語源辞典がなく,国語辞典も語源には触れ得なかったのである。
4.語源研究は学界のタブーだった
 日本では,どうして語源の研究がおろそかになっているのか。それは明治の官立大学創設当初の,言語学や国語学の出発点に原因するのである。そういう講座を最初に開いた先生方は,洋行帰りの新進気鋭の学者であったが,当時西洋の言語学界では,言語起源論は学界の論議から除外されていた。言語起源論と語源学とは,まったく別物である。にもかかわらず,語源学を言語起源論と同視したのか誤解したのか知らないが,日本の官立大学では語源の研究は除外されてしまったのである。それ以来,日本の学界では,語源を口にすることは一種のタブーとなってしまった。それ以来正統な学者の間では,語®を口にする人さえなくなってしまった。語源を云々する者は馬鹿か気違いだとされてしまった。〈3~4ページ〉【以下、次回】

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