礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

戦中に中野五郎が発した『警鐘』

2013-03-27 05:26:20 | 日記

◎戦中に中野五郎が発した『警鐘』

 三月二三日のコラムで、洋洋社「新日本建設叢書」の第二輯、中野五郎『デモクラシーの勝利』(一九四六年三月)という本を紹介した。その後、この本が、国立国会図書館に架蔵されているかどうか、同図書館の蔵書検索で調べてみたところ、たしかにヒットした。しかし、プランゲ文庫にある(つまり影印資料としてある)ということであって、一般の蔵書として架蔵されているわけではないようだ。
 ついでに調べたところ、洋洋社「新日本建設叢書」は、第一輯、武野藤介『外人の観た日本人』(一九四六年二月)、第三輯、柏原一雄『今日の言葉小辞典』、第四輯、木村毅『終戦後の文学論』のすべてがヒットしなかった。もっとも、この、第三輯・第四輯に関しては、実際に刊行されているという確証があるわけではない。
 また、「新日本建設叢書」で検索してみた結果、同名の叢書が、少なくとも三種類あることを知った。最初は、戦中に教育研究会が出したもの、二番目は洋洋社のもの、三番目は、一九四七年以降(たぶん)、日本基督教団出版事業部が出したものである。
 今回、こうした検索をおこなってみて、一番驚いたのは、戦中の中野五郎に、『警鐘―敵国アメリカの実相と我等の覚悟―』(起山房、一九四三年二月)という著書があることであった。「序」は、大本営陸軍報道部長・谷萩那華雄〈ヤハギ・ナカオ〉少将、中野五郎の肩書は、「朝日新聞社ニューヨーク特派員」である。
 この本は、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで公開されているので、全国どこからでも閲覧可能である。まず注目したいのは、「敵国アメリカの実相と我等の覚悟」というサブタイトルである。中野五郎はやはり、ヒュー・バイアスの『敵国日本』を日本に持ち帰っているのではないか。ことによると、軍の情報担当者にこの本を示し、これに対抗して、その日本版を出す必要があるといったことを説いたかもしれない。
 では、中野は、この本によって、敵国アメリカの実相をあますことなく紹介し、政府関係者、軍部、あるいは国民に、アメリカの実力を知らしめ、「警鐘」を鳴らすことはできたのだろうか。おそらく、これは無理だったと思う。このあたりについては、是非、実際に『警鐘』を読まれて、検証してみていただきたい。
 ちなみに、この本のこのサブタイトルは、本扉を見る限りでは、「敵国アメリカの実相と我等の覚悟」であるが、表紙においては、「敵愾心昂揚の書」〈テキガイシンコウヨウノショ〉がサブタイトルとなっている。どうして、そのようなことになったのかは、よくわからない。では、どちらのサブタイトルがこの本の特徴をよく示しているか。明らかに、「敵愾心昂揚の書」のほうである。つまり、この本は、ヒュー・バイアスの『敵国日本』に匹敵しうるような、冷静かつ客観的な本にはなっていないのである。このあたりについても、是非、原本にあたって確認されるとよろしいかと思う。

今日の名言 2013・3・27

◎私は敵国アメリカ撃滅の道の如何に荊棘苦難なるかを憂慮する

 中野五郎の言葉。荊棘の読みは〈ケイキョク〉。イバラを意味し、困難があることの例えとして使われる。中野五郎『警鐘―敵国アメリカの実相と我等の覚悟―』(起山房、1943)の「自序」より。こういう言葉に、ジャーナリストとしての中野の良心を垣間見る。ただし、この本全体のトーンが、「敵愾心昂揚の書」であることは否定しがたい。

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