礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

中野五郎『デモクラシーの勝利』(1946)を読む

2013-03-23 06:06:09 | 日記

◎中野五郎『デモクラシーの勝利』(1946)を読む

 敗戦直後、洋洋社という出版社から、「新日本建設叢書」というシリーズが発行された。その第一輯は武野藤介〈タケノ・トウスケ〉『外人の観た日本人』(一九四六年二月)、第二輯は、中野五郎『デモクラシーの勝利』(一九四六年三月)。
 先日、この第二輯を入手した。二段組六四ページで、定価は二円(税込)。著者の中野五郎の肩書は、「朝日新聞社前ニューヨーク特派員」。さっそく、その一部を紹介してみよう。

 日本では戦争は昭和十六年十二月八日早朝のラジオ放送で七千万国民には全く寝耳に水の如く突発し、悪戦苦闘の挙句、散々にいためつけられ国民はまるで神憑りより醒めた半病人の様に気息奄々たる状態で昭和二十年八月十五日の終戦の玉音放送を又もや突如として聞いたのであつた。即ち戦争の初めから終りまで七千万国民は全く何も真相を知らない侭に、自由どころかまるで木偶〈デク〉人形の如く乱暴なる軍人政権に尻を叩かれて嫌応〈イヤオウ〉なしに戦つて来たのであつた。【中略】
 日本の戦争指導者は開戦前より終戦後に至るまで実に徹頭徹尾、国民大衆を無視して無費任なる胡麻化しの連続であつたため、一度敗北するや正にボロの続出の有様で全く七千万国民をして呆然自失に陥れた。こでれに反してアメリカでは戦争指導者が開戦前より充分に民意聴き輿論に訴へて、つねに和戦の条理を明らかにして戦争努力(ウォァ・エフォーツ)の責任を確立してゐたので、開戦直後の騙まし〈ダマシ〉討ちに敗れてから総反攻の準傭取掛かるまでの苦境時代にも一向ボロを出さず、終始一貫、デモクラシーの勝利一途に邁進したのであつた。私自身、昭和十七年八月二十日、日米交換船で遥々アメリカより故国に還り横浜に上陸した第一印象は、
「日本は戦闘に勝ちながら、前途は暗澹として日本人は誰も不安である。これに反してアメリカは戦闘に敗れながら、将来に明朗でアメリカ人は誰でも楽観してゐる。これが同じ祖国の興亡を賭した大戦争をしながら、自由ならざる個民と自由なる国民との根本的相違であらう。」
 私は当時すでにアメリカの新聞が報ずる如く、ミッドウェー並に〈ナラビニ〉珊瑚海〈コーラル・シー〉の二大海戦の日本海軍の敗退を知つてゐたので、故国の人達が未だ勝利の夢に浮かれて愚かなる鼻息の荒さに失望したが、しかし誰一人として最後の勝利に対する自信がなくて「何んとかなるであらう」とか「戦争は理屈ではない」と前途の不安を勝手に慰めてゐる実状に蝕れると却つて同情を感じたものだ。これにひきかへて、日米開戦前後を通じて私の接蝕し或は見聞したアメリカ人は実にデモクラシーの勝利を自分の生活を通じて自信し、また自分の幸福のために懸命に努力したものであつた。

 ここを読んで興味深かったのは、著者が、日米交換船(第一次)で帰国した日本人のひとりだということである。ミッドウェー海戦で日本が敗れたことは、アメリカの新聞で知っていたという(アメリカ出国直前か)。ということは、おそらく、この交換船で帰った人たちの中には、ほかにも、そのことを知っていた人たちがいたことになる。日本の当局は、これらに人たちに「口止め」をしたのか、したとすれば、どういう形で口止めしたのかが気になった。
 また、おそらく中野五郎は、その職業柄、ヒュー・バイアスの『敵国日本』を持ち帰ってきたのではないだろうか。戦後になって初めてこの本を紹介したのは、実は、中野五郎である(『週刊朝日』一九四五年一一月四日)。そのことは、内山秀夫・増田修代訳『敵国日本』(刀水書房、二〇〇一)の「訳者解題・あとがき」(内山秀夫執筆)に書いてある。この「訳者解題・あとがき」は、なかなか興味深い一文だが、中野五郎が第一次日米交換船で帰国したことには触れていない。雑誌『世界』で紹介された「敵国日本」(『敵国日本』の抄訳)に中野五郎が関与しているかどうかについても、言及はしていない。

今日の名言 2013・3・23

◎戦争は理屈ではない

 戦争中の日本人が、前途の不安を慰めるために発した言葉だという。中野五郎『デモクラシーの勝利』(洋洋社、1946)の44ページに出てくる。上記コラム参照。

【昨日のクイズの正解】 1 1930年(昭和5)春から■1929年(昭和4)11月の文部次官通達は、事実上、学科試験の復活を認めたものだったそうです。平田宗史氏の『教育汚職』(溪水社、1991)より。

*お知らせ* 明日から3日ばかり、ブログをお休みします。今月は、いろいろとたて込んでいて、申し訳ありません。

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