改めて新年明けましておめでとうございます。
ところで、流通業界やサービス業はどこもそうですが、年末も年始も普段と全然変わりません。むしろ、世間が休みの盆や正月こそ逆に、いつもより忙しかったりします。私の勤務先の某スーパー物流センターも、年末・年始は大忙しで、バイトは公休日以外、休みなしでした。それどころか、一部の社員に至っては、連日会社に泊まり込みで自宅に帰れなかった人もいたようです。タイムカード前に置かれた鏡餅の飾り付けだけが、お正月気分を味わえる唯一の物でした。
ここで今一度、年末の業務を振り返ってみたいと思います。
まず、12月に入るやいなや、正月用のしめ飾りの入荷が始まります。最初は週末の一日(たいてい金曜日)だけの入荷にとどまっていましたが、やがて連日入荷するようになります。このしめ飾りですが、やたらでかいダンボール箱で入荷するので、カゴ車に1個か2個しか積む事が出来ません。作業場は、しめ飾りを積んだカゴ車で、次第に身動きが取れなくなります。
その次にクリスマス用のケーキの出荷が始まります。クリスマス用のケーキなので、配送中にデコレーションが崩れないように、何重にも梱包して出荷しなければなりません。出荷作業そのものよりも梱包に時間がかかります。また、特売商品なので出荷間違いも許されません。3人1組でチームを組み、1人が出荷先のリストを読み上げ、その読み上げた順に2人目がケーキを振り分けていき、3人目は間違いなく出荷された事を確認して、その場ですぐに梱包してしまうのです。取り扱うのはごく普通のケーキで、そんなに重たい荷物ではありません。それに、慎重さが要求される作業なので、どうしても時間がかかってしまいます。寒い作業場で、ゆっくりとしか動けないので、身体が芯から冷えてきます。
やがて、クリスマスも終わり、いよいよ正月商品の仕分けが本番を迎えます。
まず最初にやって来るのが正月用の蒲鉾の仕分けです。実際に百貨店などでバイトした人は分かると思いますが、蒲鉾の種類が何十種類とあるのです。そのどれもが、同じような名前で、箱の大きさや形も非常によく似ています。梱包用のテープの色で違いを識別するしかありません。慣れればそんなに難しい作業ではありませんが、最初はみんなそれで戸惑います。
それが終わると、いよいよ際物(きわもの)の入荷です。際物とは、数の子やおせちなどの、代えが効かない商品の事です。日配品などは賞味期間(保存期間)が短く、おせちも高価な商品なので、出荷には細心の注意が必要です。農産物も、化粧箱に入った商品や、縁起物で横倒しに積めない商品が一杯入ってきます。いくら長細い箱でも、縦にしか積めないので、積載効率はグンと悪くなります。ゴソゴソのカゴ車が現場に一杯溢れかえる事になります。その一方で、大きい荷姿の商品も一杯入ってきます。
元旦までは、そんな感じで業務が進みます。元旦には約半数の店が休業するので、その分は「翌日配送分」の貼り紙をして、当日出荷分と区別して、倉庫の中に仮置きしておかなければなりません。その振り分けにも神経を使います。そうして、松の内が明けて、ようやく荷物の量も落ち着いて来ます。正月明けは一転して荷物の量が少なくなります。ここで、ようやく一息つく事ができます。
もちろん、この正月の期間は、繁忙期という事で、応援の社員や臨時で雇われたバイトも一杯やって来ます。特に今年は、学生バイトが大勢来てくれましたので、むしろ肉体的には普段よりも楽だったぐらいです。取り扱う荷物の量が倍近くになっても、それ以上の人数のバイトが来てくれましたから。
ただ、結構神経は使いました。応援バイトはみんなズブの素人ですから。しかも、そのズブの素人を、うちの社員ときたら、ろくに作業の説明もせずに、どんどん現場に放り込んで来るのです。作業手順の説明も安全教育も、全てそこのバイト任せにして。
そりゃあ、我々レギュラーのバイトも、ある程度まではちゃんと教えますよ。そうしなければ、自分たちも仕事がこなせませんから。でも、バイトだけでは限界があります。そこを社員もちゃんとフォロー出来てこそ、初めて社員としての真価が問われるのではないでしょうか。
たとえば、自分も作業をこなしながら、ズブの素人の応援バイトにせっかく懇切丁寧に教えても、また別の部署に引っこ抜かれたのでは、貴重な時間を割いて教えた意味がありません。また、応援バイトを入れるなら入れるで、一度にまとめて入れてくれたら、こちらも効率よく教える事が出来るのに、最初に二人、後また少しして三人という形で放り込まれたのでは、同じ事を何度も説明しなくてはならなくなります。
要するに、やる事なす事全てが場当たり的なのです。さすがに軍手だけは応援バイトにも装着させてましたが、チェック用のサインペンも持たせずに、いきなり現場に放り込んで、トイレの場所も教えない、食堂の場所も教えないでは、無責任にも程があります。私がどれだけサインペンの補充に事務所と現場の間を往復したと思っているのか。
入れ替わり立ち替わりで何人も応援バイトが来るので、「このままでは誰が来ているのか全然分からない。簡単な物で良いから、せめて名札ぐらい付けさせろ」と社員に言ったら、何とその社員は、応援バイトの腕にテープを巻いて、そこにマジックで名前を書き始めました(上記写真)。これにはさすがに苦笑を禁じえませんでした。
いくら臨時のバイトと言えども、雇う以上は雇用責任や安全配慮義務が会社にはあるのですから、せめて名前ぐらいは知っておかないと、こちらも人の動きを管理・把握できません。それに、相手は人間なのだから、「あんた」や「おい、そこのお前」ではなく、ちゃんと名前で呼んであげなければ、仕事する気にもなれないでしょう。自分も同じような扱いをされたら腹が立つでしょう。
そんな事も分からない社員では、ただの「呼び子」でしかありません。ただ人を連れてきて、「はい、あんたはここ」と放り込むだけでは、ピンサロのボーイと同じです。
相手を「あんた」や「お前」ではなく、ちゃんと「〇〇君」「××さん」と名前で呼ぶ事は、職場としての最低限のマナー・モラルであり、人権問題でもあると思います。相手をちゃんと一人前の個人、労働者、人間として尊重しているのか、それとも、ただのモノとしかみなしていないのか。それが最もよく分かるのが、この相手を呼ぶ時の場面です。
その姿勢が、仕事の教え方にも如実(にょじつ)に現れます。私たちの仕事は、一言で言えば「商品を分けるだけ」です。入ってくる商品が発注数どおり揃っているかどうか検品して、商品や箱に貼られたラベルを見て、その店の番号や店名どおりに商品をカゴやドーリーに積んで出荷していくだけです。
でも、たったそれだけの作業でも、細かく言えば10通り以上もの工程に分かれるのです。種類によっては一緒に詰め合わせ出来ない物もあるし、縦や横にしか積めない商品もある。クリスマス用のケーキや正月用の蒲鉾のように、細心の注意を払わなければならない商品も少なくありません。どれも、きちんと説明しなければならない大事な事です。決して「ただ商品を分けるだけ」ではないのです。
それが分かっていたら、こんな「せっかく教えたのにまた別の部署に引っこ抜く」「場当たり的にバラバラに人を放り込む」「最低限度の必要備品も用意しない」「トイレや食堂の場所も教えない」「名札も用意しない」という事にはならないはずです。「人権問題」と言えばオーバーに聞こえますが、もし、これを異常と思わない、異常である事にも気付かないとしたら、自分も同じように扱われても、一切文句は言えない事になってしまいます。もし、自分が動物扱いされても、文句は一切言えない事になってしまいますが、果たしてそれでも良いのでしょうか。
我々は、ともすれば「人権問題」と言うと、問題とかホームレスの問題のように、自分とはまるで別世界の問題であるかのように捉えがちですが、今私がここに書いた事も、それと同等以上に、立派な「人権問題」ではないでしょうか。