駅ホーム片隅のベンチ(左)とエレベーター周りのベンチ(右)
緑色の光で2列に並ぶよう促すエレベーター(従う乗降客は余りいなかった)
オールジェンダートイレ前のベンチ
夢洲駅には1月22日(水)と29日(日)の2回行きました。そして駅構内の様子を動画に収め、知人に見てもらいました。しかし、その後、動画を公開する段階で、乗降客の顔にモザイクをかける方法が分からなかった為に、公開は見送らざるを得ませんでした。しかし、同時に撮影した写真にはモザイクをかける事が出来ましたので、ここでは写真のみ公開させていただきます。
何と言ってもまず驚かされたのが、広い駅の中にベンチがほとんどなかった事です。ベンチは駅のホームの片隅1か所に2人掛けのものが2つ並んでいただけでした。今はまだ万博開催前なので、このベンチの数でも対応できますが、万博開催後には最大13万人の乗降客が駅に押し寄せます。これだけ人が集まれば、雑踏の中で気分が悪くなったりする人も出るでしょう。その時に、たったこれだけのベンチで対応出来るでしょうか?
駅のホームからエスカレーターでコンコースに上がって、改札から反対側の端にあるオールジェンダートイレまで歩いた時も、ベンチは、エレベーターの周囲に6つと、オールジェンダートイレの前に3つの、計9つしかありませんでした。その他には、カームダウン・クールダウンスペース(人混みの中でパニックになった人を一時的に休ませる場所)に、2つの小さなソファーがあっただけでした。
クールダウンスペースの出入口とソファー
「大阪が圧倒的に便利になる」と宣伝中の巨大アストロビジョン
これでは、気分が悪くなった人が出ても、とても対応出来ません。ベンチが利用できなければ、もう床に横たえて介抱するしかありません。大阪メトロは駅構内の巨大アストロビジョンで「大阪が圧倒的に便利になる」と宣伝していますが、これでは便利になるどころか、命の危険に晒される事になります。
2回目の駅訪問で確信しました。「ここは人間の物流センターだ」と。物流センターでは、まず作業効率が何よりも最優先されます。大量の荷物を、期限内に正確に仕分けて注文先に届けなければならないのですから、そうなるのも当然です。そこでは作業するのに邪魔な物は全て撤去されます。そして「人材」である作業者も、荷物と同じ「1個の物」として認識されます。
夢洲駅もそれと同じです。最大13万人の乗降客を、一刻も早く万博会場に届け、戻って来た乗客も同じ様に帰さなければならないのですから。大量の乗客をさばくためのスペースの確保。電車の乗降客をいかにスムーズにエスカレーターやエレベーターに乗せ、どれだけ効率良く改札を通過させ、駅の外に出すか、電車に乗せるか。その為の通路と導線の確保が、最優先課題となります。
なるほど。これだけ駅の構内が広ければ、2001年7月の花火大会当日に兵庫県明石市JR朝霧駅前の歩道橋や、2022年ハロウィンの夜に韓国ソウル梨泰院(イテウォン)の繁華街の路地で起こった様な、大勢の人が押されて将棋倒しになる雑踏事故は起こり難いでしょう。エスカレーターでの2列待機など、大勢の乗降客を迅速に出入口に誘導する為の工夫も随所に見られます。しかし、逆にその駅の広さ故に、歩き疲れて気分が悪くなる人が続出する可能性が高まります。
そうであるにもかかわらず、「乗客の中には、人混みの中で気分が悪くなる人もいるだろうから、その人を介抱するためのベンチも必要だ。でも、余りベンチばかり置いても、人の流れが妨げられては元も子もない。ベンチは必要最小限の数だけ用意すれば良い」…おそらく、そんな考えで、駅の設計がされたのではないでしょうか。そうでなければ、こんな駅構内の施設配置にはなりません。
幾ら国や大阪府、大阪市、万博協会や大阪メトロが、巨大アストロビジョンで「多様性やSDGs(注)の未来」を説き、オールジェンダートイレを設置し、「生活が便利になる」と宣伝しても、それらは全て「人が物扱いされる」現実を覆い隠す煙幕でしかありません。「物扱い」されたくなければ、雑踏の中で倒れないように、普段から身体を鍛えておかなければなりません。これでは、もはや完全な「弱肉強食、自己責任」の世界です。これの一体どこが「環境に優しい、人に優しい近未来の万博」なのか?
(注)SDGs(エス・ディー・ジーズ):Sustainable Development Goals(サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ)の略。2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の事。貧困撲滅、環境保護、ジェンダー平等達成など17の国際目標が掲げられた。