※「蛇の道はヘビ」=「同類の者は互いにその事情に通じている」という意味の諺。類似の諺として「餅は餅屋」「芸は道によって賢し」などがある。
・朝鮮総連本部の土地建物売却=元公安庁長官代表の会社に(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/zc2?k=200706/2007061200250
・土屋元日弁連会長からも聴取=「大使館機能守るため」-総連本部土地建物売買で(同上)
http://www.jiji.com/jc/zc2?k=200706/2007061400284
・朝鮮総連 信託銀行の元行員、売買スキーム考案(産経新聞)
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070616/jkn070616007.htm
・公安調査庁と朝鮮総連の隠れたつながり(オーマイ・ニュース)
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070619/12323
この朝鮮総連絡みの事件ですが、私ははっきり言って、当初はあまり関心がありませんでした。何故かと言うと、「北朝鮮の手先」呼ばわりさえすれば何でも通用するかの様な、昨今の安直な議論に対する反発があったからです。「ああ、またいつもの安倍の悪政隠しか」という感じで。
東京の朝鮮総連本部の土地・建物の名義が、元公安調査庁長官の緒方重威氏が代表取締役を務める東京都内の投資顧問会社のものになっていた。これは整理回収機構からの差押を逃れる為の強制執行妨害だ。そして総連側の窓口を務めたのが元日弁連会長の土屋公献氏だった。人権派の弁護士が総連の便宜を図り、公安調査庁も手玉に取られていた。すわ国家の一大事だ!―これが、この問題に関するブログの多数意見でしょう。
確かに朝鮮総連は北朝鮮本国や拉致事件との関連でダーティーな部分があり、それは究明されなければなりません。だからといって顧問弁護士を務めているから即「北朝鮮の手先」云々というのは、少し違うのではと思います。そんな事を言い出したら、暴対法絡みで暴力団山口組の顧問弁護士をしている遠藤誠さんや、和歌山毒物カレー事件で林真須美被告の弁護を勤めた小林つとむさんは、一体どうなるのでしょうか(両方とも左派系弁護士です)。暴対法が言論弾圧に使われる恐れがあったり、警察の見込み捜査やリークによる情報操作の恐れがあるから、それぞれ弁護を引き受けたのでしょう。これは山口組や林被告に対する善悪や好き嫌いの評価とは全く別問題です。それを相手が北朝鮮絡みだと、途端に「国家主権の侵害だ、北朝鮮のスパイだ、反日工作員だ」でそこで思考停止してしまうかの様な昨今の風潮に、少し違和感を感じていました。
私にとっては、この事件のイメージは、バブル崩壊前後に住専や末野興産がやった不始末や、利権の飛鳥会絡みの事件に相当するものだと思っています。とりわけ後者のイメージが特に強い。朝鮮総連も解放同盟も、ともにマイノリティーの解放運動として出発したのが、次第に途中で変質して、当初のものとは似て非なる利権まみれの団体になっていったものでしょう。解放運動の理念とは裏腹に、保守支配層ともダーティーな関係を結んで、持ちつ持たれつの間柄になっていった点もよく似ています。そこで真に問題にすべきなのは、こういうダーティーな部分を払拭して本来のマイノリティー解放団体として再生する為には、総連はどうあるべきなのか、という事である筈です。その存続や解体も含めて。
そういう意味では、寧ろ朝鮮総連と公安調査庁との関係にこそ、もっとスポットが当てられて然るべきではないでしょうか。それも、よく言われる「公安調査庁にも北朝鮮の魔手が及んでいた」とか「ハニートラップ」云々の話ではなく、「両者は元から持ちつ持たれつの関係だったのではないか」という事です。その点については、私も先述の違和感に拘泥する余り、ついつい見過ごしてしまっていました。
それで改めてこの問題について調べ始めた所ですが、正直に言って、現時点では「持ちつ持たれつの関係」をはっきりと示すものを見つけ出すまでには至っていません。ただ、識者の発言の中にも私と同じ様な問題意識からのものがある事には興味を覚えました。例えば岸井成格氏がTBSのニュース番組「サンデーモーニング」で行った次の発言などがそうです。
『監視する組織と監視される組織。「蛇の道はヘビ」みたいなところがある。冷戦が終って監視対象がなくなった。オウムと北朝鮮で公調の存在が大きくなった。総連がガタガタになると公調の存在感がなくなる。阿吽の呼吸か』
http://www.janjan.jp/media/0706/0706177450/1.php
今回の件での緒方・元公安調査庁長官の弁明にしても、「自身の満州引揚体験から、在日朝鮮人の窮状を見るに見かねて」なんて事を言っていましたが、とても額面通りに受け取れません。だってそうでしょう。公安調査庁(公調)と言えば、朝鮮総連も含めて、左右のあらゆる反体制団体や政府批判の動きを監視してきた部署ではないですか。1986年の緒方靖夫・共産党国際部長宅に対する盗聴スパイ事件の例もあります。公調の監視・弾圧対象も別に朝鮮総連や社共両党や新左翼系だけに限った話ではなく、現に脱北者救援NGOのメンバーも執拗に付回されたりしています。そういう組織が、こと今回の問題に限ってだけは「窮状を見るに見かねて」とか「情にほだされて」なんて話になる訳がありません。
国家権力がJR各社から放逐した革マル派を、JR東日本に限っては容認しているのは何故か。警察・マスコミが解放同盟による八鹿高校事件やかつての津田羽曳野市政に対する暴力的行政介入に見て見ぬ振りをしてきたのは何故か。また外国の例で言えば、米国ブッシュ政権が911テロ後の超厳戒態勢下で国内在住のビンラディン一族全員をこっそり出国させたのは何故か。それと同じ「生かさず殺さず」「持ちつ持たれつ」の構図が、安倍政権と北朝鮮当局との間にもあるのではないでしょうか。表向きの対立図式とは裏腹の、実際には保守反動権力ともツーツーの関係が。
余りのさばり返って飼い犬の手を噛む様な事になれば、アフガニスタンのタリバン政権やイラクのフセイン政権に対して行った様に潰しにかかるが、そこまで行かない限りは「困った時の北朝鮮頼み」宜しく、「安倍の失政・悪政隠し」の格好の煙幕として「生かさず殺さず」利用する、と。北朝鮮に金正日政権がある限り、安倍政権は都合が悪くなれば拉致問題を小出しにして延命を図る事が出来ます。但し小出しが過ぎて政府・与党にも火の粉がふりかかってきそうになれば、その時は宇出津事件や山本美保さん失踪事件や家族会バッシングの時の様に、もみ消しにかかる、と。
単にこの朝鮮総連絡みの事件を「ハニートラップ」云々のレベルでしか捉える事が出来ず、公安調査庁やゲシュタポ自衛隊の問題も「反日左翼から日本を守る」レベルでしか捉える事が出来ない人は、左翼が弾圧され宗教も弾圧された後で(戦時中の創価学会や大本教に対する弾圧を想起せよ)、自分たちにも火の粉が及んできた時に初めて気が付くのでしょうか。もうそのレベルまで至ったら、とうに手遅れなのですが。
・朝鮮総連本部の土地建物売却=元公安庁長官代表の会社に(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/zc2?k=200706/2007061200250
・土屋元日弁連会長からも聴取=「大使館機能守るため」-総連本部土地建物売買で(同上)
http://www.jiji.com/jc/zc2?k=200706/2007061400284
・朝鮮総連 信託銀行の元行員、売買スキーム考案(産経新聞)
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070616/jkn070616007.htm
・公安調査庁と朝鮮総連の隠れたつながり(オーマイ・ニュース)
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070619/12323
この朝鮮総連絡みの事件ですが、私ははっきり言って、当初はあまり関心がありませんでした。何故かと言うと、「北朝鮮の手先」呼ばわりさえすれば何でも通用するかの様な、昨今の安直な議論に対する反発があったからです。「ああ、またいつもの安倍の悪政隠しか」という感じで。
東京の朝鮮総連本部の土地・建物の名義が、元公安調査庁長官の緒方重威氏が代表取締役を務める東京都内の投資顧問会社のものになっていた。これは整理回収機構からの差押を逃れる為の強制執行妨害だ。そして総連側の窓口を務めたのが元日弁連会長の土屋公献氏だった。人権派の弁護士が総連の便宜を図り、公安調査庁も手玉に取られていた。すわ国家の一大事だ!―これが、この問題に関するブログの多数意見でしょう。
確かに朝鮮総連は北朝鮮本国や拉致事件との関連でダーティーな部分があり、それは究明されなければなりません。だからといって顧問弁護士を務めているから即「北朝鮮の手先」云々というのは、少し違うのではと思います。そんな事を言い出したら、暴対法絡みで暴力団山口組の顧問弁護士をしている遠藤誠さんや、和歌山毒物カレー事件で林真須美被告の弁護を勤めた小林つとむさんは、一体どうなるのでしょうか(両方とも左派系弁護士です)。暴対法が言論弾圧に使われる恐れがあったり、警察の見込み捜査やリークによる情報操作の恐れがあるから、それぞれ弁護を引き受けたのでしょう。これは山口組や林被告に対する善悪や好き嫌いの評価とは全く別問題です。それを相手が北朝鮮絡みだと、途端に「国家主権の侵害だ、北朝鮮のスパイだ、反日工作員だ」でそこで思考停止してしまうかの様な昨今の風潮に、少し違和感を感じていました。
私にとっては、この事件のイメージは、バブル崩壊前後に住専や末野興産がやった不始末や、利権の飛鳥会絡みの事件に相当するものだと思っています。とりわけ後者のイメージが特に強い。朝鮮総連も解放同盟も、ともにマイノリティーの解放運動として出発したのが、次第に途中で変質して、当初のものとは似て非なる利権まみれの団体になっていったものでしょう。解放運動の理念とは裏腹に、保守支配層ともダーティーな関係を結んで、持ちつ持たれつの間柄になっていった点もよく似ています。そこで真に問題にすべきなのは、こういうダーティーな部分を払拭して本来のマイノリティー解放団体として再生する為には、総連はどうあるべきなのか、という事である筈です。その存続や解体も含めて。
そういう意味では、寧ろ朝鮮総連と公安調査庁との関係にこそ、もっとスポットが当てられて然るべきではないでしょうか。それも、よく言われる「公安調査庁にも北朝鮮の魔手が及んでいた」とか「ハニートラップ」云々の話ではなく、「両者は元から持ちつ持たれつの関係だったのではないか」という事です。その点については、私も先述の違和感に拘泥する余り、ついつい見過ごしてしまっていました。
それで改めてこの問題について調べ始めた所ですが、正直に言って、現時点では「持ちつ持たれつの関係」をはっきりと示すものを見つけ出すまでには至っていません。ただ、識者の発言の中にも私と同じ様な問題意識からのものがある事には興味を覚えました。例えば岸井成格氏がTBSのニュース番組「サンデーモーニング」で行った次の発言などがそうです。
『監視する組織と監視される組織。「蛇の道はヘビ」みたいなところがある。冷戦が終って監視対象がなくなった。オウムと北朝鮮で公調の存在が大きくなった。総連がガタガタになると公調の存在感がなくなる。阿吽の呼吸か』
http://www.janjan.jp/media/0706/0706177450/1.php
今回の件での緒方・元公安調査庁長官の弁明にしても、「自身の満州引揚体験から、在日朝鮮人の窮状を見るに見かねて」なんて事を言っていましたが、とても額面通りに受け取れません。だってそうでしょう。公安調査庁(公調)と言えば、朝鮮総連も含めて、左右のあらゆる反体制団体や政府批判の動きを監視してきた部署ではないですか。1986年の緒方靖夫・共産党国際部長宅に対する盗聴スパイ事件の例もあります。公調の監視・弾圧対象も別に朝鮮総連や社共両党や新左翼系だけに限った話ではなく、現に脱北者救援NGOのメンバーも執拗に付回されたりしています。そういう組織が、こと今回の問題に限ってだけは「窮状を見るに見かねて」とか「情にほだされて」なんて話になる訳がありません。
国家権力がJR各社から放逐した革マル派を、JR東日本に限っては容認しているのは何故か。警察・マスコミが解放同盟による八鹿高校事件やかつての津田羽曳野市政に対する暴力的行政介入に見て見ぬ振りをしてきたのは何故か。また外国の例で言えば、米国ブッシュ政権が911テロ後の超厳戒態勢下で国内在住のビンラディン一族全員をこっそり出国させたのは何故か。それと同じ「生かさず殺さず」「持ちつ持たれつ」の構図が、安倍政権と北朝鮮当局との間にもあるのではないでしょうか。表向きの対立図式とは裏腹の、実際には保守反動権力ともツーツーの関係が。
余りのさばり返って飼い犬の手を噛む様な事になれば、アフガニスタンのタリバン政権やイラクのフセイン政権に対して行った様に潰しにかかるが、そこまで行かない限りは「困った時の北朝鮮頼み」宜しく、「安倍の失政・悪政隠し」の格好の煙幕として「生かさず殺さず」利用する、と。北朝鮮に金正日政権がある限り、安倍政権は都合が悪くなれば拉致問題を小出しにして延命を図る事が出来ます。但し小出しが過ぎて政府・与党にも火の粉がふりかかってきそうになれば、その時は宇出津事件や山本美保さん失踪事件や家族会バッシングの時の様に、もみ消しにかかる、と。
単にこの朝鮮総連絡みの事件を「ハニートラップ」云々のレベルでしか捉える事が出来ず、公安調査庁やゲシュタポ自衛隊の問題も「反日左翼から日本を守る」レベルでしか捉える事が出来ない人は、左翼が弾圧され宗教も弾圧された後で(戦時中の創価学会や大本教に対する弾圧を想起せよ)、自分たちにも火の粉が及んできた時に初めて気が付くのでしょうか。もうそのレベルまで至ったら、とうに手遅れなのですが。