アフガン・イラク・北朝鮮と日本

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ギリシャのアキバ革命

2008年12月20日 00時33分32秒 | その他の国際問題
 記事にアップするのが遅くなってしましたが、前から気になっていたニュースを一つ。この12月に入って、ギリシャでは、警官による少年射殺に端を発した暴動が国内各地に飛び火し、今もその余波が続いています。
 首都のアテネでは、外国人観光客が集まる高級レストランや高級ホテルが、破壊行動の標的にされました。失業者や若者が、「美味いものばかり食いやがって!」と叫びながら、レストランやホテルのショーウィンドーを叩き割り、広場にあるクリスマスツリーが焼かれました。この動きは地方都市にも広がり、高校生もデモに加わったり、警察署が包囲されたり、放送局が一時占拠される騒ぎにまでなっているそうですから、これは半端ではありません。

・ギリシャ首都などで暴動 警官による少年射殺に抗議(北海道新聞)
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/133779.html
・ギリシャ暴動10都市に拡大 アテネ、騒乱状態に(同上)
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/134002.html
・アテネ、アクロポリスに横断幕 反政府デモ参加呼び掛け(同上)
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/135805.html

 私は、このニュースを見て、真っ先に思い浮かんだのが、あのアキバ事件です。派遣会社から解雇されたと思い込んだ若者が、それまでの不遇や「勝ち組」への積もり積もった恨みを爆発させて、無差別殺傷に及んだという、例のニュースです。勿論、無差別殺傷事件に終わったアキバと、暴動や抗議デモにまで発展したギリシャとは、そもそも内容の規模が違いすぎますが、「美味いものばかり食いやがって!」という暴徒の叫びの中に、前者とも共通する「やり場の無い怒り」を感じました。
 私は、それで、このギリシャの事件には、絶対に何がしかの社会的背景が潜んでいると直感しました。しかし、ネットで検索しても、単発的な事実経過に関しては少なからずヒットするものの、全体的には「暴徒の騒乱」「若者による暴動」といった評価が大半で、その原因や社会的背景まで踏み込んで解説した記事には、なかなかお目にかかる事が出来ませんでした。

・ギリシャ:アテネで若者暴動(毎日新聞)
 http://mainichi.jp/select/world/news/20081208k0000e030030000c.html
・【動画】地元テレビ局がとらえたギリシャ暴動(AFP・BB)
 http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2547304/3599137

 商業メディアは勿論の事、AMLやJANJANなどの市民派メディアにも関連エントリーがアップされていないので、已む無くギリシャ在住日本人のサイト・ブログから情報収集する事にしましたが、こちらも「暴徒」批判だけに終始しているものが殆どで、「何故そんな事が起こったのか」という肝心の事は、殆ど書かれていませんでした。

・アテネ暴動に思う。(ギリシャに暮らせば/アテネ発)
 http://ameblo.jp/greeklife/entry-10175145923.html
・なんとなく、こんな日々、同2(日刊ギリシャ檸檬の森 古代都市を行くタイムトラベラー)
 http://lemonodaso.exblog.jp/10296056/
 http://lemonodaso.exblog.jp/10310474/
・ギリシャ暴動、全土に 不況で社会不安…欧州各地にも飛び火(産経新聞)
 http://sankei.jp.msn.com/world/europe/081209/erp0812092146008-n1.htm
・TIMES ギリシャ暴動の背景(日テレ・プラネット・TIMES)
 http://www.news24.jp/125122.html

 そこで已む無く、最近のギリシャ国内情勢に関する情報から調べ始めました。但し、調べ始めたとは言っても、時間的制約もあって、主に下記のサイト・ブログから収拾する事にしました。

・最近のギリシャ情勢と日・ギリシャ関係(外務省)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/greece/kankei.html
・ギリシア蜂起:暴動:警官による少年射殺に対する抗議行動がギリシア全土に拡大:緊急まとめエントリ(回虫)
 http://d.hatena.ne.jp/tzetze/20081209/1228805962

 そこで分かった事を、とりあえず下記に抜書きしておきます。

● ギリシャと言えば、兎角「古代の世界遺産」や「観光」のイメージだけがやたら強い国ですが、産業と言えばその観光と、あとは造船業ぐらいしかなく、実際はEU域内の後進国として、格差や貧困が国内に広がっていた。
● 歴史的にも、当該地域は東西冷戦に翻弄されてきた所だった。第二次大戦中はナチス・ドイツに一時占領され、戦後は西側の介入によって、60年代には反共軍事政権が一時成立。70年代の民政移管以後は、保守(ND=新民主主義党)と社民系(PASOK=全ギリシャ社会主義運動)の二大政党による「政権たらい回し」が繰り返されてきた。
● 冷戦終結以後は、東欧・トルコからの移民が激増。その一方で、キプロスやマケドニアの帰属問題を巡って、周辺諸国とは緊張関係にある。特に東隣のトルコとは長年に渡って対立してきた(そもそも今のギリシャ国家自体が19世紀にオスマン・トルコからの独立で誕生)。またギリシャ自身も、独・仏・英国への移民供給地としての地位に長年甘んじてきた。
● 前述の二大政党を主要政党とするも、それ以外の左翼諸派(共産党、独立系左派、アナーキスト)や右翼勢力も、一定の基盤を国内に確保している。

 ここから推測するに、このたびのギリシャの「暴動」は、決して若者だけによる、「理由無き反抗」だけで片付けられるものではないと思います。若し何の広がりも無い、単なる「ただ暴れたいだけ」のものなら、同国内の労組ナショナルセンターが少年射殺に抗議したり、連帯ゼネストに決起したりする筈がありません。
 同国では若者の失業率が23%にも達すると言います。外務省HPにこそ「五輪後もEU内で最高水準の経済成長」という記述も見られますが、それは多分、国際金融不安が起こる以前の「バブル景気」について述べたものでしょう。同国内の世論調査でも、今回の「暴動」を支持できないとする人が約65%を占める一方で、支持できると答えた人たちも3割以上に上るという結果が出ています。

 確かに、そういう明確な抗議の意思を持った人たちだけでなく、高級レストランや移民を襲撃したり、携帯電話販売店の女性店員をレイプしたりする様な、付和雷同の便乗組も、決して少なくないのも事実でしょう。これらの人たちが、本当にアナーキストによるものなのか、はたまた逆に、アナーキストの仕業と見せかけたファシストによるものなのか、そこまではまだ何とも言えませんが。しかし、少なくとも、そこにはそれなりの社会的背景があり、決して「理由の無い反抗」でない事だけは確かだと思います。

 このギリシャの「暴動」ですが、これは決して遠い南欧の出来事ではありません。この日本でも、最近のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、’07年度の、15歳から24歳までの若者の長期(1年以上)失業率は、既に21.3%に上るとの結果もあります。実際、電車で通勤しているだけでも、最近あちこちで人身事故(自殺)が頻発しているのが分かります。この自殺の大半が生活苦によるものであろう事は、容易に想像できます。

 今まで私たちは、北朝鮮やアフリカや、「あいりん地区」の惨状を、まるで「対岸の火事」の様に看做しては来なかったか。「それに比べたら、『先進国』に住んでいる自分は、まだまだ恵まれている」などと、何の根拠も無く思ってこなかったか。ところが何の事は無い、飢餓や貧困は、北朝鮮やアフリカの話なんかではなく、自分の直ぐ身近に起こっている問題だったのです。それに今の今まで「気付かされていなかった」だけなのです。

 つまり、アキバ事件は、あくまでも氷山の一角にしか過ぎないのです。実際、麻生邸を見に行こうとしただけで「転び公妨」で不当逮捕したり、休日にビラをまいただけで不当逮捕したり、そんな事ばかりやっていたら、怒りの吐け口はもう無差別殺傷事件か、リストカットによる自傷行為に向かうしか無いではないですか。
 それを思うと、まだ「暴動」や「抗議デモ」の形で、政治的意思をそれなりに明確に表明した今回のギリシャの事例の方が、「日本よりもまだマトモじゃないか」とすら思えてくるから、不思議なものです。その運動を「支持する・しない」には関わらず。日本は、今のままでは、ギリシャよりももっと陰惨な形で、似たような事件があちこちで起こる様な気がしてなりません。
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3 コメント

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ギリシャの騒乱 (kyotakaba)
2008-12-20 22:50:54
こんにちわ、
私も、一挙に広がった騒乱には驚きました。
また、理解も難しいものだと思います。
既にお調べのこととは存じますが、現政権への市民の不満は、昨年の山火事の処理の頃から、先鋭化していたのだと思われます。ヨーロ導入後の国内の経済構造変化で、特に下層市民へは厳しい状況です。また、カセメリニのような高級紙でも、繰り返し、大卒後の就職難が報じられています。不満が十分あったのでしょう。仏や英、先日のスウェーデンの暴動と違うのは、移民でなく、自国の若者と言うことです。これからの推移は分かりませんが、大きな変化の端緒なのかもしれません。
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kyotakabaさん、ようこそ。 (プレカリアート)
2008-12-21 09:47:10
 先般のギリシャの暴動ですが、直後に日本でもニュースで取り上げられたものの、続報が殆ど無いので、一体何がどうなっているのか、さっぱり分かりません。
 山火事の処理が不味くて政権批判が起こった事については私も知っていましたが、何故それがいきなり反政府感情に結びつくのか、どうも分かりにくくて。日本で言えば、’95年当時も阪神・淡路大震災の対応が遅れて、当時の村山内閣が批判の矢面にたたされたりしましたが、それと良く似ているのかも。
 そうですか、経済的不満の増大は、ユーロ導入がキッカケですか。そうすると、今秋の国際金融不安よりも、もっと以前から、不満の根はくすぶっていたのですね。

 あと、「ギリシャではアナーキストが結構強い」という事も、調べて初めて分かりましたが、意外でしたね。フランスでも、かつてユーロコミュニズムの雄として名を馳せた共産党が凋落し、代わってトロツキストが反グローバリズムの旗手として登場してきていますが、それと似たようなものなのか。
 PASOKは一時期「ソ連でも西独社民党でもない第三の社会主義への道」を唱えたりしたので、私としては、かつての日本社会党左派みたいなものかと思っていたのですが、結局はパパンドレウの私党でしかなかったという事ですね。
 共産党も結構強いようですが、主流派はゴリゴリの親ソ派で、私としては分派で自主独立派のシナスピスモスの方に、より親近感を抱いていました。アナーキストは、それとも別個の勢力の様ですが、実態はどんなものなのでしょうか。

 このエントリーについてですが、当初は1968年のパリ5月革命に準えた記事にしようかと思っていました。しかし、調べていくうちに、どうしてもそれではピンと来なくて。何故なら、当時のスローガンは、大学解体・ベトナム反戦・ウーマンリブといった、あくまでも理念中心のものでしたでしょう。少なくとも、「美味いものばかり食いやがって!」といってレストランを襲撃したり、’Xマスツリーを焼き打ちしたり、なぞという事はありませんでした。
 今回のギリシャの事態は、それよりも、寧ろ90年代以降の西成暴動や、この前のアキバ事件に準えた方が、より分かりやすい。
 そういう意味でも、事態は、5月革命当時とも比べ物にならない程、より深刻であると思います。しかし、それでもギリシャの場合は、アキバ事件の様な無差別テロではなく、少なくとも敵(カラマンリス政権、国内の「勝ち組」、或いは派遣会社による搾取や、その背景にあるグローバル資本主義)が明確に意識されているだけ、まだ救いなのかも知れません(勿論、レイプに及ぶ様な暴徒は、また違うと思いますが)。

 しかし、その一方で、「この日本もまんざら捨てたものではない」という気持ちも、私の中にあります。
 つい昨日も、あの麻生がまたまた、ハローワーク視察の場で、「何でもいいから働きたいといって来る奴なぞ誰が雇うか」という意味の暴言を吐いたそうですが、その事で麻生を擁護するネットの書き込みに対して、逆に批判が殺到していました。
 確かにこの麻生擁護論者のいう事も一理あります。私が企業の面接官であったとしても、こんな人は落しますよ。しかし、それは「面接官の立場に立つ限りはそうせざるを得ない」というだけの事でしかありません。逆に失業者の立場に立てば、意に反する仕事でも選ばざるを得ない今の実態を考えれば、「何でもいいから働きたい」というのは、庶民の偽らざる本音でもあるのですから。
 麻生が問題なのは、そういう企業面接官の思惑や失業者の本音も含めて、総合的に判断しなければならない一国の総理という立場にいるにも関わらず、こんな「居酒屋でクダを撒いているバカウヨ封建オヤジの愚痴」みたいな事しか言えないからで、そんな「漫画」振りに、みんな愛想を尽かしてしまっているのでしょうが。

 こんなムチャクチャな麻生政権も、今や支持率17%と、成立してから僅か2ヶ月でここまで落ちたのも、日本の国民が、小泉・安倍「劇場演出政治」の本質を掴み始め、そこから教訓を引き出し始めたからだと、私は思っています。「難しい事は分からないが、あいつらは何か胡散臭いぞ」という風に。確かに、橋下徹や東国原英夫みたいな輩がまだまだ人気を保っているという、退嬰的な面も残しつつですが。
 そして、未曾有の「派遣切り」や「内定取り消し」といった事態が進行する中で、今までは「何されても物言わぬ民」であるかの様に思われていた日本の非正規労働者も、次々に反撃に立ち上がっています。ついこの間まで、「戦争にしか希望が見出せない」なぞと言っていたのが、まるでウソであるかの様に。

 kyotakabaさん、ギリシャのニュースで続報があれば、その時はまた色々と教えて下さい。今後とも宜しくお願いします。
返信する
北沢洋子の国際情報・世界の底流 (プレカリアート)
2009-01-08 21:00:35
 標記タイトルのHPに、12月25日付で、ギリシアの反政府デモについての詳しい報告がアップされているのを、偶然見つけました。当該ページへの直リンクは張れない設定になっているので、トップページのURLを下記に記しておきます。
 http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
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