8月18~19日のシフト連休を利用して、福井県の永平寺と東尋坊に、一泊二日で旅行に行って来ました。この2つの観光地については、7年前にも訪れた事があり、当時の記事もブログに残っています。私は鉄道が趣味なので、7年前はえちぜん鉄道に全線乗りましたが、福井県内のもう1つの私鉄である福井鉄道には乗る時間がありませんでした。あれから7年経ち、福井鉄道電車のえちぜん鉄道一部区間への乗り入れも実現した今、現況をぜひ知りたいと思い、福井に行って来ました。(上の写真の左がえちぜん鉄道、右が福井鉄道。地元ではそれぞれ「えち鉄」「福鉄」と略称で呼ばれているので、記事でもそう呼ぶ事にします)
「福鉄」は、第三セクターの「えち鉄」とは違い、今も純然たる私鉄経営を続けています。営業エリアも福井市と郊外の鯖江・武生(現・越前)両市を結ぶ都市間輸送に特化しています。(左上の写真がその路線図。黄色が「えち鉄」の勝山永平寺線、青が同じく三国芦原線。緑が「福鉄」の福武線と、「福鉄」が「えち鉄」三国芦原線に乗り入れている区間)
「えち鉄」の駅がJR福井駅の東側にあるのに対し、「福鉄」の駅は西側にあります。こちらは福井市内の道路上に敷設された併用軌道を走るので、駅は西口駅前広場の停留所になっており、車両もステップ式の路面電車が採用されています。「えち鉄」の駅名は「福井」でしたが、こちらの駅名は「福井駅」です。だから、○○駅と呼ぶ場合は「福井駅」駅になりますw。
「福鉄」の路線は、「えち鉄」乗換駅の田原町から越前武生までの福武線の1本だけです。以前は他にも支線が数本ありましたが全て廃止されてしまいました。
その福武線の福井城址大名町電停から、福井駅電停に通称「ヒゲ線」が延びています(上図の路線図参照)。田原町を出た電車は、その半分近くが福井駅電停に立ち寄り、乗客を乗せた後は再び福井城址大名町まで戻り、武生に向かうスイッチバックで運転する事になります。
左は福井駅電停の時刻表・運賃表。右は研修中(?)の2人の運転士。
「えち鉄」にはアテンダント(切符販売兼務の案内嬢)が乗車していましたが、こちらは運転士が2人乗務して、越前武生まで交互に運転を交替していました。1人が運転中、もう1人の運転士はそれをフォローしていました。多分、新人研修か何かの最中だったのでしょう。どちらの運転士も、切符の買い方等を尋ねる私に、丁寧に答えてくれました。
「福鉄」は、都市間輸送を担うだけあって、こちらは「えち鉄」とは違い、終日2両編成で運行されています。運転間隔も「えち鉄」と同じ30分間隔で運行されています。途中の花堂(はなんどう)までは複線です。
福井市内は併用軌道(路面電車)で、商工会議所前から先は専用軌道(鉄道線)になります。そして、花堂から先は単線になります。ポイントを覆っている逆U字型の構造物はスノーシェルター(スノー・シェッドとも言う)で、冬に雪でポイントが凍り付いてしまわないようにしています。このスノーシェルターは「えち鉄」にもあります。
並行して走るJR北陸本線も、福井・武生間には特急が30分間隔で走っていますが、こちらは普通運賃以外に特急料金も必要です。特急料金が要らない普通電車は、1時間に1本しかありません。
普通に考えれば、幾ら路面電車で途中の駅の数も多く、到着に時間のかかる「福鉄」でも、こちらは福井駅立ち寄り分も含めれば1時間に3本も走っているのですから、JRより断然有利な筈です。しかも、「福鉄」の電車は、路面電車タイプながら、専用区間に入ると時速60キロで走り抜けます。最近デビューしたFUKURAM(フクラム)と呼ばれる新型の低床式車両に至っては、時速70キロまで走行可能との事です。私はそれを見て、まるで「チン電暴走族」のようだと思いました。
ところが、そこまでスピードアップを図って、フリークエンシー(頻発運転)を確保しているにも関わらず、福井駅を出た時には20名弱いた乗客が、終点の越前武生に着く頃には僅か数名にまで減っていました。福井と武生の間はせいぜい20キロ程しか離れていないにも関わらず。
ここまでの乗客減少は、もはや過疎化やモータリゼーションだけでは説明が付きません。少子高齢化や、長年に渡る第一次産業・地場産業衰退、そこに新型コロナ感染拡大が追い討ちをかけ、地方私鉄を存亡の危機に追いやっているのです。
左:「福鉄」に乗り入れている「えち鉄」のキーボ。「福鉄」のFUKURAMとはまた別の新型車両。右:北府車庫に係留中の鉄道線専用車両。こちらはラッシュ時間帯のみ走っています。併用区間では乗降口にステップ式の階段が出るようになっているそうです。
しかし、車両は新型でも線路は草茫々。保線にまで手が回らないのです。そこにこそ、地方私鉄の置かれた厳しい状況が見て取れます。GoToキャンペーンなんかよりも、こちらに予算を回せ!
私が茶化して言った「チン電暴走族」も、そこまでスピードアップを図って集客に躍起とならなければ、私鉄経営を維持できないからです。ここも元々は路面電車ではなく普通の電車が走っていました。車庫のある北府(きたご)駅には、当時走っていた普通電車2両が今も車庫脇の側線に止められています。
もはや「福鉄」も、大株主の名鉄が撤退して、地元の市町村や商工会で構成する地域協議会による株式買取で、経営を維持している有様です。実質的にはもう、「えち鉄」のような第三セクターとほとんど変わりません。
だから、「えち鉄」「福鉄」の相互乗り入れで、活路を見出そうとしているのでしょう。「福鉄」は福井市内の商店街も路面電車で走るので、それを「えち鉄」経由で三国芦原線の鷲塚針原まで運転区間を延伸すれば、乗客が増えると目論んだのでしょう。
本当は鷲塚針原より更に先の、三国・芦原方面や勝山・永平寺方面まで、直通区間を伸ばせれば良いのですが。そうする為には、今の路面電車では無理です。
福井市内も高架か地下に変え、専用軌道化して普通電車でスピードアップを図るしかありません。でも、そうすれば、今の気軽に下駄履きでも乗れる路面電車のメリットは失われてしまいます。色々悩ましい所です。
「福鉄」には平日でも販売している全線1日フリー切符(福鉄応援きっぷ)があるので、それと「福鉄」ロゴの蟹カレーを買って応援する事にしました。
「福鉄」の1日フリー切符と蟹カレー。中身はレトルトのカレーですが、大阪に帰って食べたら一瞬ですが、蟹の風味が口の中に広がりました。
「えち鉄」とは田原町で接続しています。7年前に来た時は、この駅は単なる乗り換え駅に過ぎませんでした。「福鉄」の線路は先で途切れ、「えち鉄」とは繋がっていませんでした。それが今や、僅か1本とは言え繋がるようになりました。この試みが成功する様に願うばかりです。
写真上段2枚:田原町駅の全景。左の3番線が「えち鉄」三国芦原線、右の1・2番線が「福鉄」で、2番線の線路が「えち鉄」に繋がっています。同じく左下:田原町駅の「福鉄」切符売り場、右下:同じく「えち鉄」切符売り場。