「故郷の春に」
青い空が 田んぼの水に憩う
あぜ道のタンポポが
あどけない揺れ方をする
古びた社が 清楚な佇まいでいる
その穏やかさの訳は
頬を吹く風に 無造作に紛れている
自分の重さを 素直に感じる枝垂桜
朝露を まだこぼさない若い木の葉
川のせせらぎは まぶしく
跳ねて飛ぶ 糸とんぼ
名前も知らない 野の花たちも
目の中の美しい点描
この大地に 活けられてあることを
喜ばしく思っていると
声を持つ小鳥が 代わりに教えてくれる
若い草の匂い 牛舎の牛の穏やかな目
すべてが優しい その訳を
風の中から 取り出すことが
できるのならば
きっと 沢山の苦しさを
手のひらに 優しく包み込んで
乱れぬままに 美しい
微笑みのような 合掌になるに違いない
その手を覚え 和らぐ
旅人の僕の顔にも
春のあどけない 空の青さが
触りにきている
人はきっと 思う以上の豊かさに
触れられている
肩にさわる その微かな重さに
自分のささくれた手を
重ねることが できるのなら
手のひらに 包まれた秘密も
花開くように
心に流れ込んできて
力づけられると
故郷の春の空に
信じられる気がした
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